Friday, 21 February 2025

フリマントルの高射砲

西オーストラリアの首都パースの近郊に、フリマントル(Fremantle)という綺麗な港町がある。サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフに似て、大きな倉庫を改造した地ビールの店が立ち並ぶ観光地である。

フリマントルは日本の南極観測船の出発港でもある。隊員は日本から飛行機でパースまで行き、ここで越冬に必要な食料を調達して船に乗り込む。

かつてその町は、連合軍の最大の潜水艦造船基地でもあった。インド洋の防波堤として、地理的に優れていたからだった。その防衛に多くの高射砲が設置され、(今では殆ど撤去されたが)その名残が残っていると聞き見に行った。

地下要塞を兼ねた基地は1942年に建設が開始され、1944年に完成した。1942年といえば日本がミッドウェー海戦で敗れた頃、以後制海権はどんどん北に押し戻され、完成した頃にはサイパンを失っていた。だからここ迄飛行機が飛んでくる事もなく、一度も実戦がないまま終戦を迎えたのであった。

ただ日本軍への恐怖は想像以上で、例えば1944年に今のインドネシアのチモールから一人の日本人が八ミリを持ってやって来たのを、上陸の前兆と警戒した。事実当時、日本政府発行の豪ドル紙幣まで作っていたから猶更であった。

説明してくれたオーストラリア人の係員は、此方が日本人だと分かると、暫し黙ってしまった。その沈黙がとても長く感じられ、早くここから逃げたくなった。

以前、クーランガッタというゴールドコーストの丘に夕陽を見に行った時も、さり気なく海に向かった公園のフェンスに、日本軍によって沈められた多くの船の碑が掛かっていてドキッとした。オーストラリアの人は陽気で人がいいだけに、「大変な事をしてしまった」と時代を超えて負い目を感じるのであった。

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