Thursday, 31 October 2024

五臓六腑

秋が深まりつつある。明日からもう11月で晩秋に入る。月日の経つのは本当に早い。昨年もそうだったが、今年の秋もまた暖冬らしい。気温が下がらないと紅葉の鮮度が落ちる。黄色から真赤にはならず、どす黒い赤で散ってしまう。残念だがこれも風物詩の世界、一年が長くなったと思って諦めている。

 寒くなると美味いのは燗酒である。息が白く成り始める頃、空き腹に流れ込む熱燗には都度覚醒させられる。忘れていた五感が呼び戻される。一日の冬支度の作業が終わり、疲れを癒す一杯に寒さが吹っ飛んでいく。

こんな文化は日本だけのような気がする。確かにヨーロッパにはワインを温めて飲む習慣もある。ただ冬のスキー場やクリスマスの露店市などに限られている。ワインへの敬意がそうさせるのか分からないが、多分暖かいワインは食事に合わないのだろう。 

また欧米の家屋は信じられないほど暖かい。部屋ではTシャツで過ごせる程、暖房が半端でない。あのロシアでもさえも、暖房費は無料と冬対策は完ぺきである。冷えたウォッカを飲めるのにも訳がある。クルマ文化に慣れた若い人なら、冬でもダウンとTシャツ二枚で過ごせるのは羨ましい限りである。

 一方日本の家屋は木造だから、夏は涼しいが冬は極めて寒い。だから日本酒の出番があり、夏の暑い日は冷酒、春夏の常温を経て熱燗とオールマイティーに対応しているのだろう。四季とシンクロした日本人の国民性も、この辺が原点になっている。

Tuesday, 29 October 2024

神宮外苑の再開発

神宮外苑の樹木伐採が始まった。再開発には反対が多かったので注目されている。長年親しんだ樹木にはヒトの思い出が詰まっている。だからその気持ちは痛い程分かる。

 暫く前だったか、近所で突然樹木の伐採が始まった事があった。ある日突然業者がやってきて工事が始まった。聞くと台風で一本の木が倒れたので、家主が「この際全部切ってしまおう!」と決めたという。そんな馬鹿な!と思ったが後の祭り、その数20本近くはあっただろうか、樹齢100年の高さにして10m程の木々が二日で無くなってしまった。

その時は本当にショックだった。他人の敷地とは言え、長年共にした風景が無くなるのはとても他人事ではなかった。木で家が崩壊しても保険でカバー出来るのに、同じ森を取り戻すには100年掛かるから・・・。

 神宮の野球場は六大学の思い出の場であったし、又戦前の学徒出陣式の舞台だった。テニス倶楽部にもお世話になった。20年程在籍しただろうか、学閥社閥が色濃く残っていた場所だった。ラグビー場も寒い日によく通った。それも無くなるのはとても寂しい。

今回の神宮開発は三井不動産がやっている。立派なデベロッパーだし、日本橋に代表される街作りにこれ以上の会社はないだろう。個人的には、ブランドショップで埋め尽くされたビル群は好きではないが、若い世代は満更ではないと聞く。10年もすれば新たな木も成長するだろうし、もうそれを見守るしかない。

 正に「老兵は死なず、ただ消え去るのみ(Old soldiers never die but just fade away)」、後は若い人に任せるのがいい。

Tuesday, 22 October 2024

永濱さんの本

講談社新書の「エブリシング・バブルリスクの深層」が話題になっているというので読んでみた。著者はトルコ人のエコノミストと永濱利廣氏である。

世界は不動産バブル、EVバブル、暗号通貨バブルだから、いつ崩壊してもおかしくないという。ただ日本はバブってないから、むしろ伸びしろが大きいという。(本当かと思うが)これからインフレが始まり日経平均は30万円になるという。

 その理由として、①日経平均のPERは、16倍とダウの26倍に比べて低い事、②米中経済のブロック化により、世界はその地勢リスクを回避するために中国から撤退する。半導体の九州立地がいい例だが、日本はその受け皿になる、③日本企業が海外で稼ぐ力を付けて来た事等、を挙げていた。

 確かに株価は、ダウが30年前の1000ドルから今では4万ドルと40倍になったのに、日経平均は4万円を超えたとはいえ、やっとバブル時代の高値を取り戻したのに過ぎない。余りのギャップに大きな調整が入ってもおかしくない気もする。

春の賃上げ効果もそろそろ出始める頃だし、そう言えば景気循環に30年周期もあった。柏木雄介さんの「悲観するより楽観する方が難しい」の名言を思い出す。少し期待してもいいかも知れない。 

 ただ気になったのが税の国民負担率である。日本は48%とアメリカの32%に比べて高い。確かに社会保険料は病気をしない者にとっては馬鹿高いし、消費税も低所得者層に堪えている。筆者はこれが景気の足かせになっていると云うが、一方でドイツは54%、フランスは70%と大きな負担に耐えている国も多い。正直こればかりはよく分からない。

Wednesday, 16 October 2024

冬支度と木こり

今年も冬支度の季節がやってきた。仕込みは大変だが、薪はあっという間に燃えてしまうので、量の確保が大事だ。1〜2年乾燥させた丸太に斧を落とす。真っ直ぐ育った木なら数回で辺りは付くが、曲がっていたり途中から枝が出ていると中々割れない。性格が悪いと扱い難いのは人間と同じである。薪が無くなれば命に関わるので、このルーチンは大事である。

 問題は焚き木の仕入である。幸い近くに無料の廃材所があるので、入手に困る事はない。ただ大きなトラックがある訳でもないので、素人の運搬には限度がある。

そんな矢先、近くで小規模の伐採が始まった。何やら古木の倒木を懸念した地主が、新築の家に配慮したとか。ビルの3,4階はあるだろうか、木こりは高い木に命綱一本で登っては、上手に枝を落としていく。最近ではヘルメットにトランシーバーが付いているので、下に待ち受ける者との会話は小声だ。

 「これはひょっとしてチャンスかも?」と、思い切って「枝を譲ってくれないか」と聞いてみた。すると快く応諾してくれ、夕方には小型のシャベルカーで自宅まで運んでくれた。3m程の中木が300〜400本はあっただろうか、その量に今更断る訳にも行かず有難く頂戴したが、果たして年内に処理できるか心配になった。

 それにしても、(いつも思うのだが)木こりの顔は実にいい。造園家もそうだが、自然相手の仕事をしている人の目は澄んでいる。その一人がやってきて、私がチェーンソーで切るのを見かね歯を研磨してくれた。流石プロは違う!力を入れずにスパッと切れるようになった。こうした自然を通じた関りが何とも心良い。

Thursday, 3 October 2024

サラエボの銃声

安倍さんが銃撃されて2年が経った。安倍派は裏金問題で壊滅、世耕さんは自民党を離党し朋友の麻生さんも勢いを失った。皮肉にも天敵の石破さんが総理になり、一発の銃弾がかくも多くの人々の運命を左右するかと思うと、実に不条理である。

 思い出すのは「サラエボの銃声」である。ボツニア系セルビア人の撃った弾がオーストリア皇太子に当たり、第一次世界大戦が切って落とされた事件である。その一発で1000万人の命が失われることになった。

犯人の男はその時パンを食べていた。そこに偶然皇太子の馬車が通り掛かり、咄嗟に飛び出て撃った。馬車はその前に起きた爆発の負傷者を見舞いに、病院へ向かう途中だった。

普段ならば大通りを通る予定が、近道をしようと狭い路地に入った時だった。銃撃場所の壁にはプレートが掛かっていた。直前のルート変更は、後のJFKの時と同じだった

 犯人の男の名前はプリンツィップ(Princip)という。彼は事件後プラハ郊外のテレジンという収容所に収監された。テレジン収容所は第二次大戦に入り、ポーランドの最終処理場に向かう大きな中継収容所になった。何年か前にそこを訪れた時、プリンツィップの写真を発見してビックリ、世界を混乱に陥れた男の末路は虚しかった。

余談だが、彼は今ではセルビアの英雄になり、ベオグラードには銅像も建っているらしい。確かにハプスブルク家の支配から解放されたセルビアかも知れないが、それはこじ付けである。伊藤博文を撃った安重根の銅像もそうだが、暗殺は美化してはいけない。