寒くなると美味いのは燗酒である。息が白く成り始める頃、空き腹に流れ込む熱燗には都度覚醒させられる。忘れていた五感が呼び戻される。一日の冬支度の作業が終わり、疲れを癒す一杯に寒さが吹っ飛んでいく。
こんな文化は日本だけのような気がする。確かにヨーロッパにはワインを温めて飲む習慣もある。ただ冬のスキー場やクリスマスの露店市などに限られている。ワインへの敬意がそうさせるのか分からないが、多分暖かいワインは食事に合わないのだろう。
また欧米の家屋は信じられないほど暖かい。部屋ではTシャツで過ごせる程、暖房が半端でない。あのロシアでもさえも、暖房費は無料と冬対策は完ぺきである。冷えたウォッカを飲めるのにも訳がある。クルマ文化に慣れた若い人なら、冬でもダウンとTシャツ二枚で過ごせるのは羨ましい限りである。
一方日本の家屋は木造だから、夏は涼しいが冬は極めて寒い。だから日本酒の出番があり、夏の暑い日は冷酒、春夏の常温を経て熱燗とオールマイティーに対応しているのだろう。四季とシンクロした日本人の国民性も、この辺が原点になっている。