ケン・フォレットの「針の眼(Eye of the Needle)」は、英国で活動するドイツスパイの話であった。スパイは偽装を見抜いてノルマンディーを確信したが、情事に溺れて帰国出来なかった。また「烏(Jackdaws)」は反対に、パリに潜入する英国の女性スパイの話。随分前に読んだが、「上陸地点はパ・ド・カレー(Pas-de-Calais)」の偽情報の流布に成功した。
その都市カレーは、英仏を繋ぐドーバー海峡の最短ルートである。昔からフェリーの発着点で、ユーロトンネルの起点になっている。ドイツ軍の大半はここが本命と思って主力を置いていた。その為、今でも断崖には手付かずの要塞跡が数多く残っている。第二次大戦初頭に英国軍が撤退したダンケルクも近くにある。
上陸が成功した理由の一つが、司令官ロンメルの不在だった。D-Dayの6月6日は、運悪く彼の妻の誕生日であった。長らく休暇を取っていなかったロンメルは、暫くは侵攻がないものと判断し、その日に合わせて国に帰る事にした。
彼は前々日の6月4日の朝7時に、司令部のあったフランスのラ・ロッシュ・ギオン(La Roche-Gyon)村を発って、自宅のあるドイツのヘルリンゲン(Herrlingen)に向かった。当時は安全上の理由で、将校の移動に飛行機が禁じられていたので車だった。
距離にして約800km、コーネリアス・ライアンの「史上最大の作戦(The Longest Day)」には「夕方の3時ごろに着いた」と書いてあったので、時速100㎞以上で走った計算になる。当時の道路事情を考えると物凄く速かった。
彼が家で寛いでいた頃に侵攻が進んでいたかと思うと、何ともやり切れない心境を察する。そういえば、戦後アルゼンチンに逃亡して潜伏していたアイヒマンも、奥さんの誕生日に花を買った事で身元がバレて捕まった。身内には甘くなるのは人間だから仕方ないのだが・・・。
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