Sunday, 25 February 2024

「部屋の象」ワイン

オーストラリアは農産国である。チーズ、ミルク、ヨーグルトなどの乳製品はビックリする新鮮さである。普段は飲まないオレンジジュースも病みつきになる。そしてワインである。

例えば日本のスーパーでもよく見かける「黄色い尻尾(Yellow Tail)」というテーブルワインがある。本場でも日本と殆ど同じ価格で売っていたが、味は破格に美味しかった。「これって別物?」とも思ったが、ワインは揺れに弱いからその理由も頷けた。

特にラベルのユニークさは世界一である。フランスだと醸造所や産地・年代など規制が厳しから、ラベルを見るとグレードが直ぐ分かる画一性がある。オーストラリアはそれが緩いのか、勝手なネーミングで遊び心満載であった。

そのいい例が、先般書いた「19人の犯罪者(19 Crimes)である。19人(19種類)の犯罪者の顔写真は正に圧巻であった。また先のYellow Tailも、カンガルーをイラストしたいかにもオーストラリアらしい一品であった。三種類あってオーストラリアはShirazの産地とはいうが、個人的にはシャルドネ・ソ―ヴィニョンが気に入っている。
「パブロとペドロ(Pablo&Pedro)」というコミカルなワインもある。ラベルには「スペインの情熱に敬意を込めて」と書いてあったが、典型的なブレンド品である。パブロは小柄だ口煩い元気者、一方ペドロは大柄で大人しくエレガント、この二人(二つの味)が一緒になったのがこのワインという。中々旨い表現だと笑ってしまったが、10ドル(1000円)程で美味かった。

もう一つ、「部屋の象(Elephant in the Room)」もあった。オークとスモーキーな香りは、部屋に象がいる匂いだという意味である。もう少し違う表現方法はないのだろうか?とも思ってしまうが、生産者の気持ちが伝わってきた。

Saturday, 24 February 2024

オットーという男

高齢化の時代とは言え、長生きすればお金も掛かるし身体も弱くなる。特に伴侶に先立たれたり、病を抱えながら生きるのは大変だ。随分前だが親戚の叔父さんが亡くなった。80歳前半だったか、奥さんが亡くなるとまるで後追いするかのように逝ってしまった。昔気質の人だったので奥さんにも随分と威張っていたが、嘘のような最後だった。

そんな事を思い出しのは、昨年公開された映画「オットーという男(A Man Called Otto)」だった。トム・ハンクス演じる老人が愛妻に先立たれて、そのショックで何度か自殺を試みるが、危ない処で近所の人に助けられる話である。トム・ハンクスでなかったらとても観られたものではなかったかも知れないが、やけに共感を誘われた。 

 もう一つ、昔の小説「白い犬とワルツ(To Dance With A White Dog)」も、これを契機に読み直してみた。物語はオットーと同じで、奥さんに先立たれて孤独になる老人の話である。ただオットーの元に現れたのが猫だったのに対し、此方は犬だった。普段は目にも止まらない捨て猫や捨て犬だが、いざという時には孤独を癒す伴侶になるのであった。 

 処でこうした孤独は、都会生活と深い関係があるとかねがね思っている。リースマンの「群衆の孤独」ではないが、人は他人に囲まれた都会で孤独感を感じる一方で、自然の中ではそれがないからだ。確かに山を歩いていると、心細いが寂しいとは思わない。 

 都会は近くにスーパーや病院があって便利だが、その便利さが逆に曲者である。定年を契機に群馬の田舎に移ったOさんは、自給自足用の畑仕事や水の汲み出しが日課である。冬の寒さに備えて薪を仕込むの大変だ。薪はあっと言う間に燃えてしまうが、チェーンで切って乾燥させ斧を入れる作業は、膨大な時間と体力が要る。ただその自然と営むルーチンに、生存本能が刺激されるという。

Friday, 23 February 2024

Airbnbの宿

今回も宿はAirbnbで探した。Airbnbは個人と個人を繋ぐ民宿ネットである。希望の条件を入力し気に入ったら申し込むと、オーナーから直接返事がくるので簡単だ。価格もホテルの半分程度だし、部屋はどこも綺麗で当たり外れがない。

 部屋は大きく分けて、共用スペースをシェアーする場合と専用する場合の二つがある。前者はキッチンやトイレが他の宿泊者と一緒になるが、学生や旅行者の時間はマチマチなので、あまり鉢合わせになることもない。冷蔵庫は段ごとに置き場が決まっている。調味料などは残ると置いて行くので、大体の必需品は揃っている。ホストと称するオーナーは多くは別の処に住んでいるので、あまり気遣いもない。

処が昨年は間違ってホストと同居の家を選んでしまった。大きな一軒家の一室で、朝は「おはようございます」の挨拶から始まり、主人のシャワーが終わるのを見計らって使い、キッチンも彼らの食事時を外して食べる窮屈な毎日だった。若い頃なら未だしも、この歳で居候になったような気分だった。幸い主人とは気が合い、夜はよく飲んで話せたので、オーストラリア人の生活の一端に触れる事が出来た。 

 彼は英国のリバプールから移って来て、今の奥さんと結婚した。3度目の結婚とかで、前の奥さんとの子供もオーストラリアに住んでいた。奥さんも二度目の結婚で、前の夫とに間に出来た男の子が一緒に住んでいた。精神に障害があったので、時折カウンセラーが時々やってきて、奥さんが熱心に耳を傾けていたのが印象的だった。素晴らしい自然に囲まれ羨ましかったが、「どこの家庭でも悩みがあるのは万国共通だ!」と思った。

 今回はそんな反省から、1LDKを占有にして快適だった。着いて鍵が中々見つからないので困った以外は、何一つ不自由はなかった。

Thursday, 22 February 2024

International Gentleman

もう一つ、ゴルフ場での出来事だった。ラウンドしていると、騒々しい一団がいた。二人用のカートが4台、男たちが7〜8人が一緒に廻っていた。髭を蓄えた女装もいて、奇声も聞こえてきたので酒も入っているのが分かった。ただ田舎のゴルフ場で、週末時折見かける光景なので左程驚かなかった。

 ところが折り返しで擦れ違う処に来ると、隣のコースからボールが真横に飛んできた。シャンクでそれも2発続けて。腕前は素人だし、暫くプレーを中断してやり過ごす事にした。

するとその時どこから現れたのか、女性がカートで飛んできて彼らの処に駆け寄った。服装からしてプレー中のメンバーの人のようだった。彼女はその一団相手に何やら注意しているのが分かった。

そして終わってから私の処にやってきて、「International Gentleman、もしも彼らのボールが当たったのなら、保険が掛かっているのでクラブハウスに行くように!」と言って去って行った。その女一人で立ち向かう姿は、キリっとして実に格好良かった。日本では絶対見られない光景だった。

 場所はRosewood Golf Club、カンガルーが沢山生息しているコースであった。因みにカンガルーは集団で過ごす。昼間は日陰に寝ていて、お父さんらしいオスが見張っている。ゴルファーが近づくと仲間を移動させる。中にはお腹の袋に入ったベービーも居て本当に可愛い。夕方になると活動を始め飛び回るので、ゴルフ場が突然サバンナに変わる。

Wednesday, 21 February 2024

ロストボールにはご用心

外国でゴルフをやると結構ドラマがある。

先日もブリスベンの郊外でゴルフをした時だった。ティーショットを打って歩いていると、コースの真ん中に真っ白なボールが落ちていた。ロストボールは多いので拾って歩いていると、暫くして隣のコースから男が現れ、「タイトリストのボールなかった?」と聞く。ひょっとしてと、さっきのボールをみると確かにタイトリストだった。「ごめんごめん」と誤ってその場は終わった。

それから暫くして、後ろから来た男がカートで追い上げてきたので、先に行かせようと道を譲った。此方は歩きなので当然の事だった。彼は「有難う!」と豪快なショットを放ち追い越した。

そして彼の第二打を見ていると、「あれ、それって彼のボールじゃないよ?もっと飛んでいたはずだったから?」と思った。結果はその通りで、その後彼は自分のボールを見つけて、「貴方のボールを間違って打っちゃった!」とその誤球を私に渡そうとした。

勿論それは私のボールではなかったので固辞したが、やり取りも面倒なので受け取っておいた。 処がその後またさっきのタイトリストの男が現れ、「俺のボールなかった?」と聞く。私のポケットから出て来たのは正にそれで、不可抗力とは言え2回目でバツが悪かった。

 ラウンドが終わりクラブハウスに引き揚げると、支配人の耳には既にこのニュースが届いていて、「XXが文句言っていたよ!」と言われた。私も「その通りだが、複雑な事情で・・・、でも何という事をしてしまって」と謝って恥ずかしかった。

 それからそれが縁で支配人と雑談が始まり、かれこれ30分程は話しただろうか?最後は見知らぬ客に同情したのか、別れ際には100周年の記念ワインやタオルを土産にくれた。

場所はSandy Gallop Golf Club、めったにこう言うことはないが、トラブルも終わってみればいい旅の思い出になったのであった。

Monday, 19 February 2024

19人の犯罪者ワイン

今年の冬は暖冬でもう桜が咲いている処もある。欧州も暖かく、北半球は世界的に暖かい冬になっている。 

一方、南半球のオーストラリアは冷夏である。毎年35度になる日が多いが、今年はブリスベンでも1月から2月は30度に届くかどうか、それに加えてやたらに雨の日が多い。ゴールド・コーストの年間の雨日は30日程度と言われているので、正に異常気象である。地球の軸の傾きでも変わったのだろうか?と勘繰ってしまう。

そのオーストラリアだが、治安はいいし人々も温和である。見知らぬ人同士の目が合えば、必ずにニコッとして挨拶を交わす。一番顕著なのは車の運転マナーである。制限速度は驚くほどきちっと守り、割り込みや無理な追い越しも殆どない。病院は無料だし、大きな家に住んでタダみたいなゴルフをすれば、ストレスなんて出る余地はないのだろう。 

そんなおおらかな国民性は、広大な国土と移民の過去と深い関係がある気がする。それを象徴するのが、「19 Crimes (19人の犯罪者)」というワインである。受刑者の顔写真が付いたワインの説明書には、「この国を築いた彼らはパイオニア」として称えてある。当時の移民法では大航海を経て辿り着けば、例え死刑囚でも減刑され堅気の人になったのだった。

 このワインは安い割には味もしっかりしていて美味しかった。尤もこの話を飛行機で隣合わせたオーストラリア人に話すとあまりいい顔はしていなかった。面白い話も相手を選ばないと失敗する。

Sunday, 18 February 2024

メリーポピンズの生地

旅をしていると意外な発見がある。先日もオーストラリアのMaryboroughという小さな町を通った時だった。市役所でトイレを借りようとすると、守衛みたいなおじさんが立っていて、「このトイレは世界一美しいトイレです!」という。確かに入ってみると、天井から壁までの美しいペインティングが施されていた。

それはメリーポピンズ(Mary Poppins)の世界だった。聞くとここはその作者のパメラ・トラバース(Pamela Travers)が生まれた町だった。まだ開拓当時の街並みが残るレトロな町の一角に、彼女の父が務めていた銀行跡が博物館になっていた。 

 ウォルト・ディズニーが作ったメリーポピンズの映画は、ジュリー・アンドリュース演じるナニー(教育係)が、銀行家の家に住み込み処から始まる。魔法で子供達を勇気付け、大人たちにも子供心を取り戻す感動作である。有名なA Spooful of SugarやChim Chim Cher-eeなどの歌も、一度聴いたら忘れられない曲である。

 しかしモデルになった銀行員の父親は、アルコール依存症で降格させられ早世し、母親もそのショックで後追いを試みるなど、家庭環境は良くなかった。そのため彼女はこの町を出て親戚の家を転々とし英国に渡る事になったのである。

そんな幼少期を乗り越えて、パメラは児童文学者として素晴らしい作品を作った。題材は父親から聞いたケルトの童話や銀行員の家庭環境で、全て父親をベースとしていたのであった。

思い出したのはアイルランドのフォークソングである。アイルランドの歴史はイングランドの長い圧政でとても暗いものがある。ところがパブで聞く民謡は、それとは裏腹に陽気でリズミカルである。この不思議は未だによく分からないが、お父さんもアイルランド系と聞いて何か共通するものを感じたのであった。