昔は給与の三倍のダイヤモンドリングを贈るのが定番だった。駆け出しのサラリーマンにとってその額は預金を殆ど使い切る額だった。高度成長期の成せる業だったが、何故そんな事になったのか?そのカラクリがやっと分かった。
それはダイヤモンドの大手デビアス(De Beers)社のマーケティング戦略だった。70年代初頭にはダイヤモンド指輪を送る新郎は10%にも満たなかったが、その後の同社の「婚約指輪は給料の三か月分」のCMで一挙に流れが変わった。お寺のお布施ではないが、いくら渡していいのか分からない中で、初めてその標準が出来たのであった。「じゅわいよ・くちゅーるマキ」「カメリアダイヤモンド」なんて名前があった頃だった。
そんな事を思い出したのは、あのシドニー・シェルダンの「Master of The Game(ゲームの達人)」を読み返したのが切っ掛けだった。相変わらず面白くて一気読みしてしまったが、小説のモデルは南アのダイヤモンド王のセシル・ローズだった。デビアス社はそのローズが創設した会社、今でも世界のダイヤ市場の50%以上を支配しているのだ。特に日本の小売販売は未だに世界2位と言う。不況というのに、銀座に立ち並ぶ高級ブティック店がその成功を物語っている。
小説の中に跡を継がせようとするTonyという息子が出て来る。ただ彼は経営には関心なく絵の道を進む。ところが実権をもつ祖母は広告会社を使って監視に可愛いモデルを送り込む。それらは全てデビアス社傘下のマーケティング部門で、日本のCMも彼らが担ったのに違いない。
「ダイヤモンドは永遠の輝き」は殺し文句である。不思議な輝きに見入れば益々その魅力に嵌って行く。ただそれも彼らの掌の上で躍らせられていたかと思うと、何とも複雑な気分になる。