Tuesday, 28 November 2023

下部大会の報酬

先日、慶応の日吉で行われたテニスのチャレンジャー大会を観に行った。その日は準々決勝で、冬日とは思えない暖かい日に多くのファンが詰めかけていた。

中でも予選から勝ち上がった内山選手と中国系オーストラリア人のリ・トゥ(L.Tu)選手の一戦は見応えがあった。結果は第一セットを7/5で取った内山が第二セットも7/5で競り勝った。ただランキングは内山が297位、トゥが247位とほぼ互角、そのため試合はどちらが勝ってもおかしくない展開だった。 

 最後はトゥ選手がドロップショットをミスして終わったが、彼は次の瞬間、持っていたボールを林の中にぶち込んだ。これには誰しもびっくりしたが、競り負けた悔しさが伝わってきた。 

 彼は遥々オーストラリアからやって来てこの大会では2勝もしたが、その報酬(賞金)はたった2200ドル(33万円)だった。ホテル代や飛行機代を払っても足が出る額である。改めてプロの厳しい現実と、一戦に掛ける思いも知った。 

 普段はジョコビッチやフェデラー、野球で言えば大谷などのスター選手しか見てないから分からないが、こうして下部大会を垣間見ると、スポーツ界の生の人間模様が見えて来る。

Monday, 27 November 2023

別れの友

「あれ、今日Wさん来てないの?」「聞いてないの?Wさんは癌が見つかったらしいよ!」

 そんな何気ない会話から始まって、テニス仲間のWさんの病気を突然知った。それもレベル4という。レベル4の上は5があるかと思いきや、0から始まるので最高位の末期症状だった。末期だからもう手術すらも出来ないという。普段元気でコートを走り回っていた人だけに、驚きも大きかった。

そんなWさんが先日ひょっこりコートに現れた。少し瘦せたとはいえ、元気に相変わらずの軽口をこぼしていた。奥さんに「スノータイヤに替えたからこの冬は大丈夫だよ、と言ったら泣かれちゃったよ!」と自嘲気味に話すと、一同シーンとしてしまったが。その日は何もなかったかのようにプレーをして帰って行った。 

 思えば誰しも、この世に生を受けた時から終わりに向かって生きている。だから今更驚く事ではないかも知れないが、やはりそれが現実になると話は別である。突然別れがやって来られても、中々受け入れられるものではない。

そんな中、旧友のM君の訃報も届いた。昨年雨の中で一緒にゴルフした後、体調を崩して気になっていたが真坂の知らせだった。実直で寡黙な人だった。最後に澤乃井の大吟醸を飲んだ時を思い返しては、青春の在りし日が蘇ってくる。

Monday, 20 November 2023

季節の濁り酒

先週の木曜日はボジョレヌボーの解禁日だった。季節の風物詩と思い、早速味わった。毎年「今年は出来が良く・・・」と宣伝されるが、正直味の良し悪しはよく分からない。それでも取り立ての新酒が、遥々地球の裏側から運ばれて来たか!と感慨も一入ある。

処でこの春に学生時代の仲間と中尊寺を訪れた事があった。立派な建造物に改めて日本の文化に感心した次第だが、その帰り道の一ノ関駅で買った酒がまた旨かった。酔仙酒造の「雪っこ」という濁り酒であった。

濁り酒は普通ドロドロして酵母が口に残るが、これはスッキリして実に口当たりがいい。 すっかり気に入ったので、その時は何本かアマゾンで取り寄せて飲んだ。あれから半年余り、今年もまた寒い冬がやって来た。今年の新酒も出たのでまた注文した。そろそろ届く頃なので楽しみだ。 

 同じ様に旨いと思っている濁り酒に、菊水酒造の「五郎八」もある。原酒の「ふなくち」は時間と共に味が変化するので有名だが、こちらも中々いける。暖かい鍋をつつき乍ら、冬の夜長を送っている。

Saturday, 11 November 2023

魔法の言葉

ラジオを聴いていると、駐日大使のエマニュエルさんが面白い事を言っていた。それは「日本に着任してから何が一番印象に残りましたか?」という問いに対する答えだった。

 彼は「皆さんは富士山と言う答えを期待しているかもしれませんが違います」と前置きしてから、「それは黄色い帽子を被った子供が横断歩道を渡る光景です」と言う。子供が止まった車の運転手にお辞儀する仕草が、何とも珍しく微笑ましいらしい。

確かに言われてみれば、外国では止まった車に会釈する習慣はない。何でも譲り合い謝る国民性の延長だろうが、外国の人から見ると美徳に映るようだ。

 昔から外国人に教えられ、初めてその価値に気付くのが日本人である。浮世絵やミシュランの高尾山はそのいい例だが、改めてソフトの部分でも希少価値を認識した次第だった。特に昨今のアラブとユダヤ、ロシアの戦争を思うと、緩やかな国の文化に感謝するのである。

 処で私の場合、「フランスに住んで何が一番印象に残ったか?」と聞かれると、大使に準え「エッフェル塔でも凱旋門でもありません、それはフランス人の挨拶です」と答える。

 日本の「おはよう」は儀礼的で抑揚がないが、フランス人はボンの次のジュールを一オクターブ上げるイントネーションが特徴である。大きな声で、しかも必ず相手の目を見て話すから猶更インパクトが大きい。この一言で本当に朝が明けた気分になり楽しくなる、正に魔法の言葉である。フランス人の挨拶は世界一である。

Saturday, 4 November 2023

万博は中止にしたら?

大阪万博まで1年半を切ってきた。参加国は153もあると言うのに未だパビリオンは一つも出来ていない。建設資材や人件費も上がって、政府は先日1000億円の追加支援を決定したが、本当に大丈夫だろうか? 

作家の筒井康隆さんが「今からでも遅くないから止めたらどうか?」と言っていたが、全く同感である。そもそも巨大な箱もの陳列は、今の時代に即しているのか?甚だ疑問である。

昔ドイツ人と仕事をしていた頃、良く仕事の進め方で議論をした。日本人とドイツ人は共に気帳面な国民性だが、効率性で大きく異った。 

 それは意思決定のプロセスで、日本人は議論を積み上げるボトムアップ型なのに対し、ドイツ人はトップが方向性を出し部下がその裏付けを取るトップダウン型であった。彼らから「そんな事をしていたら、いざという時に引き返せないじゃないか!」と良く言われた。長時間掛けた部下の苦労を水に流すのは忍び難く、変だと思ってもついついハンコを押していた時だった。

 今回の万博はそのいい例である。インパール作戦に準える人もいるが、正に氷山に向かって突き進むタイタニック号に思えてくる。 

余談だが、前回の万博の特に岡本太郎の太陽の塔が話題になった。以来彼の芸術性が定着し、大した作品でもないのに持て囃されている。渋谷駅に掛かっている巨大な「明日の神話」はその典型である。原爆の惨事を描いた絵だが、朝晩の通勤で下を通る度に気分が悪くなった。同じように不快感を持つ人はいないのだろうか?