Monday, 8 May 2023

黒木亮の新作

黒木亮の新作「メイク・バンカブル」を読んでみた。彼の三和銀行ロンドン支店時代を綴った作品でよく書けていた。登場人物が実名で出て来るのでリアルだった。読む方は面白いが、既に去った会社とはいえ、やり玉に上がった人は少し気の毒だった。

凄いなと思った事が二つある。一つは過去の記憶力である。ディールの詳細な経緯も去る事ながら、出張の便名や面談者の履歴、延いてはその日に食べた食事のメニューまで、事細かに記されている。旅先から自身宛に絵葉書を出す手法を使っていたようで、もう少し早く知っていれば私も真似させてもらった。

もう一つは凄まじい収益意識である。組成の幹事手数料や利鞘は勿論、自身の留学費用も含めて年間の貢献度をはじく辺りは、流石コマーシャルバンクの人は違う!と思った。 それにしても彼は優秀な人だ。

本の中にDKBの伝説ディーラーだった故神田晴夫氏も出て来る。67億円の差損を出して解雇された人で、その件を加藤仁の「ディーリングルーム25時」で読んで涙したという。著者のトルコ案件でオーバーコミットして引き受けた話と重ね合わせその訳が分かった。やはり有名になる人はどこかでリスクを取っている。

銀行は保守的な所だ。いくら儲けても、損を出すと厳しく罰せられる。組織だから一人でやった訳ではないのに、都合が悪くなるとスケープゴートが必要になってくる。今まで普通に働いていた行員が、ある日突然に背任者、犯罪者になるから怖い。その血祭がないと人心が納まらないのだろう。そんな体質を思い出した。

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