Tuesday, 23 May 2023

月と6ペンス

黒木亮の本にサマセット・モームの「月と6ペンス」が出て来る。彼が学生時代にカバンの中に入れていたとかで、ブローカーから画家になったゴーギャンと、バンカーから作家に転じた自身を重ねていた。そうかと思って書庫を探すと、此方も学生時代に買った赤茶けた文庫が出て来た。この際なのでサッと読み返してみると・・・。

物語はイギリス人のブローカーがある時突然、妻を捨てパリに行き絵描きになる処から始まった。心配した友人が訪ねると「絵を描きたくなった」と言う。生活は窮乏して、それを見兼ねたパリの絵仲間が自宅に引き取ると、その妻を寝取ってしまうのであった。妻は自殺、その後タヒチに移り住み17歳の少女を妻にして制作に没頭する。

ただ実際のゴーギャンはフランス人で、確かに株のブローカーだったが本職の傍ら絵も描いていたようだ。妻のデンマーク人との間には5人の子供がいて左程関係も悪くなかった。タヒチで妻にした女性は3人もいて、いずれも13-14歳と子供だった。ピサロやセザンヌとも親交があり、ゴッホとのアルルでの共同生活は有名である。

 ゴーギャンの絵は原色で太いタッチが特徴である。個人的には淡いシスレーやピサロの方が好きである。ただ題目の「月」は崇高な芸術を指すので、妻と称する女性も所詮はモデルの一人だった事が分かり、絵画への情熱の凄さが伝わってくるのであった。

 ところでゴーギャンの働いていた旧パリ証券取引所は今でも残っている。コリント様式の建物の周りにはブローカーが入居するビルが建ち並んでいる。90年代まで実際に使われていて、ファミリータイプの小さなブローキング会社が入っていて良く通った。近くには旧BNPやソシエテジェネラルの本社もあり、正にフランス金融の中心地であった。

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