Tuesday, 30 May 2023

Boeingのジェット船

先日佐渡に行った。二泊三日の旅だった。嘗て栄えた金山や国鳥の朱鷺などを見て廻った。今から60年以上前、小学校に入るか入らない頃に親に連れられて行ったので2回目の訪問である。その時は船に酔った記憶だけが残っている。

流石今の高速船は早かった。新潟港から佐渡の両津港まで1時間で行けた。勿論揺れもしないので快適だった。ところがその船を見てビックリ、船首にBoeingと書いてある。調べるとベトナム戦争の時に使ったミサイル艇が原点らしい。海運大国の日本だから、自前の高速艇もあるだろう!こんな小型艇までアメリカから買わされたかと思うと、複雑な気分になった。 

 思い出したのは国産機のスペースジェットである。20年以上かけて官民一体となって開発してきたのに、遂に先ごろ三菱重工が開発を断念した。詳しい事は分からないが、日本の航空産業の再建を快く思わないアメリカの横槍だったのでは?と思ってしまう。

 船内では、黒木亮の「トリプルA」を読んだ。90年代前半の金融危機を描いた話である。その前に読んだ「獅子の如く」と違って実名が多いので、少しは臨場感があった。色々当時を思い出したが、S&PやMoodyの格付会社の背後には、やはりアメリカ政府の大きな力を感じた。

80年代に台頭した日本の銀行証券を潰しに掛かったのだろう。アメリカは時に産業界と政府の人の行き来が盛んだから、利害が一致した時のモメンタムは大きい。敗戦して78年が経ったが、まだまだあちこちで戦後が続いている。

Monday, 29 May 2023

企業戦士は命懸け

黒木亮(本名金山)の本に、彼がロンドン赴任の前に実の父に会いに行く件がある。岸信夫さんではないが、就職の時に戸籍を見せられ、初めて自身が養子だった事を知った。中々ドラマティックで、彼が長距離ランナーとして大成した理由も分かったり、養父との絆を改めて強くした。

会いに行ったのは、海外に出ると生死が危ぶまれるからだった。事実暫くして、彼は飛行機の車輪トラブルやロンドン爆破テロに遭遇した。企業戦士だから死とは背中合わせは宿命なのかも知れないが、その気持ちは分かる気がした。

実際死ぬかと知れないと思った体験もある。一つはマレーシアであった。その日は首都のクアラルンプールから東海岸のクアンタンまで、海上の天然ガス基地の視察に出かけた。生憎の雨でツアーを企画したペトロナスの人から「今日は着いてもヘリが飛べるか分かりません」と言われた。

延々小型バスに揺られウトウトとしていた時だった。バスがカーブでスリップしグルグルと廻った。気が付くと崖の中腹で止まっていて、もう一回転していたら下まで転落していた。其の日は引き返すのかと思って居たら、何もなかったかのようにツアーは続行されマレーシア人の能天気さにも驚いた。

もう一つはパリである。当時はアルジェリア系イスラム組織のテロが頻発していた頃だった。今の銃撃事件ほどは激しくなかったが、時々パリでも爆破が起きた。其の日はいつものように凱旋門を通って車を走らせていた。会社に着くと、その通勤路でゴミ箱が爆発したニュースが報じられていた。数分遅れていたら巻き込まれていた。

尤もNYの9.11で命を落とした人は多いし、交通事故に遭ったりスパイ容疑で拘束される人もいる。企業戦士だから色々ある。

Thursday, 25 May 2023

直島のオブジェ

コロナも解禁し、海外からの観光需要も回復して来た。嬉しい反面、また行楽地で混雑が始まるかと思うと複雑な気分になる。

そんな中、ガイドを始めた友人のHさんが面白い事を言っていた。それはフランス人観光客の人気スポットである。京都や奈良かと思いきや、なんと最近は岡山の犬島や直島という。島全体が現代アートに包まれ、フランス人の好きな草間彌生などのオブジェが置かれているそうだ。

 外国人が日本の価値を見出し、日本人が再認識するケースは多い。典型的なのは浮世絵だが、高尾山もミシュランに載ってから急に人が増えた。昔何かのTV番組で、北海道の寒村を取材していた。名もない食堂のドアを開けるとフランス人夫妻が食事をしていた。遥々こんな所まで来るのは新鮮な魚介を食べるためと聞いて、流石食に敏感な国民は違うと思った。暫くして真似してみたが、確かに知床や室蘭辺りの魚は旨かった。

日本が気に入って住み付く人も増えている。不動産が安いからだろう。特に中国人が多いらしい。治安の良さ、綺麗な空気、美味しい食など、日本は住み易いようだ。 

先日もとあるオープンコンペに出ると、中国人女性と一緒の組になった。中年の彼女は横浜で仕事をしているが、最近はリゾートの別荘で過ごす時間が増えたという。子供もいないので、郁々は日本の介護施設に入る計画という。「中国人が生魚を食べ出すと日本人が寿司を食べられなくなる!」ではないが、老後の施設まで心配になってきた。

Wednesday, 24 May 2023

人影の石

広島で行われたG7が無事終わった。当初参加が危ぶまれたバイデン大統領も来たし、何よりゼレンスキー大統領の参加はインパクトが大きかった。非核化に向けたメッセージにグッと重みがついた。これで岸田内閣の支持率も上がったようだ。

一行が初日に向かった先は原爆資料館だった。そこで強烈な印象を与えたのが「人影の石」だっという。ゼレンスキー大統領もそれが今のウクライナと重なったスピーチをしていた。

 私は子供頃、短い期間だが広島に住んでいた。当時はその「人影の石」はまだ爆心地のままの場所にあった。それは住友銀行広島支店の玄関に座っていた人が、原爆の閃光で影の部分だけ直射を免れたものだった。子供心にも強烈なショックを受けた記憶がある。今では資料館に移設されたと知り、改めて当時の事を思い返した。 

日本で戦争の記憶をオフィシャルに残しているのは、この広島と靖国神社の遊就館ぐらいではないだろうか。これも国民性なのか、憲法改正にみる歴史観もそうだが、戦争をタブー視しているからその痕跡が殆ど残していない。これは本当に残念である。

逆に海外を廻ると、沢山の日本の遺留品に出逢うから驚いてしまう。特にアメリカの持ち帰り品の多さは凄い。ワシントンDCのスミソニアン博物館、サウスカロライナの海兵隊記念館やテキサスの太平洋戦争記念館など、オーストラリアの首都にある戦争博物館やシンガポールも多い。正に外から見ると日本が見えて来るのだが、今からでも遅くないので歴史の収集をして欲しいと願う。

Tuesday, 23 May 2023

月と6ペンス

黒木亮の本にサマセット・モームの「月と6ペンス」が出て来る。彼が学生時代にカバンの中に入れていたとかで、ブローカーから画家になったゴーギャンと、バンカーから作家に転じた自身を重ねていた。そうかと思って書庫を探すと、此方も学生時代に買った赤茶けた文庫が出て来た。この際なのでサッと読み返してみると・・・。

物語はイギリス人のブローカーがある時突然、妻を捨てパリに行き絵描きになる処から始まった。心配した友人が訪ねると「絵を描きたくなった」と言う。生活は窮乏して、それを見兼ねたパリの絵仲間が自宅に引き取ると、その妻を寝取ってしまうのであった。妻は自殺、その後タヒチに移り住み17歳の少女を妻にして制作に没頭する。

ただ実際のゴーギャンはフランス人で、確かに株のブローカーだったが本職の傍ら絵も描いていたようだ。妻のデンマーク人との間には5人の子供がいて左程関係も悪くなかった。タヒチで妻にした女性は3人もいて、いずれも13-14歳と子供だった。ピサロやセザンヌとも親交があり、ゴッホとのアルルでの共同生活は有名である。

 ゴーギャンの絵は原色で太いタッチが特徴である。個人的には淡いシスレーやピサロの方が好きである。ただ題目の「月」は崇高な芸術を指すので、妻と称する女性も所詮はモデルの一人だった事が分かり、絵画への情熱の凄さが伝わってくるのであった。

 ところでゴーギャンの働いていた旧パリ証券取引所は今でも残っている。コリント様式の建物の周りにはブローカーが入居するビルが建ち並んでいる。90年代まで実際に使われていて、ファミリータイプの小さなブローキング会社が入っていて良く通った。近くには旧BNPやソシエテジェネラルの本社もあり、正にフランス金融の中心地であった。

Tuesday, 9 May 2023

今でも健在の若林氏

バブルの頃に出た「ディーリングルーム25時」には、多くの日本人ディーラーが登場する。世界トップの銀行の半分以上を邦銀が占めていた頃だったから、誰でもスターに成れるチャンスがあった。

あれから30年、本に登場した人達の多くは消えていった。その中で唯一今でも活躍している人がいた。それは若林栄四氏である。元東京銀行のディーラーで「Mad Dog(狂犬)」のあだ名の如く、独自の相場観は当時から定評があった。 

現在はNYに住まわれているようで、Youtubeを見ると最近の相場を語っていた。早速その薫陶に肖った。例えばドル円だが、FRBの金融引き締めは手詰まり感と景気後退でそろそろ終わりに近づくという。そうなれば金利は下がるので、ドル安円高になる。そうでなくても日本の金融緩和は出口に近づいている。素人でもこれから円が上がる気がしていたので、強い味方を得た気分になった。

 緻密なチャートのテクニックを付ければ、将来のシナリオを描く事が出来る。一度それが当たると何にも代えがたい喜びがあるようだ。パチンコではないが中々抜け出せないのも分かる気がする。

Monday, 8 May 2023

黒木亮の新作

黒木亮の新作「メイク・バンカブル」を読んでみた。彼の三和銀行ロンドン支店時代を綴った作品でよく書けていた。登場人物が実名で出て来るのでリアルだった。読む方は面白いが、既に去った会社とはいえ、やり玉に上がった人は少し気の毒だった。

凄いなと思った事が二つある。一つは過去の記憶力である。ディールの詳細な経緯も去る事ながら、出張の便名や面談者の履歴、延いてはその日に食べた食事のメニューまで、事細かに記されている。旅先から自身宛に絵葉書を出す手法を使っていたようで、もう少し早く知っていれば私も真似させてもらった。

もう一つは凄まじい収益意識である。組成の幹事手数料や利鞘は勿論、自身の留学費用も含めて年間の貢献度をはじく辺りは、流石コマーシャルバンクの人は違う!と思った。 それにしても彼は優秀な人だ。

本の中にDKBの伝説ディーラーだった故神田晴夫氏も出て来る。67億円の差損を出して解雇された人で、その件を加藤仁の「ディーリングルーム25時」で読んで涙したという。著者のトルコ案件でオーバーコミットして引き受けた話と重ね合わせその訳が分かった。やはり有名になる人はどこかでリスクを取っている。

銀行は保守的な所だ。いくら儲けても、損を出すと厳しく罰せられる。組織だから一人でやった訳ではないのに、都合が悪くなるとスケープゴートが必要になってくる。今まで普通に働いていた行員が、ある日突然に背任者、犯罪者になるから怖い。その血祭がないと人心が納まらないのだろう。そんな体質を思い出した。