黒木亮(本名金山)の本に、彼がロンドン赴任の前に実の父に会いに行く件がある。岸信夫さんではないが、就職の時に戸籍を見せられ、初めて自身が養子だった事を知った。中々ドラマティックで、彼が長距離ランナーとして大成した理由も分かったり、養父との絆を改めて強くした。
会いに行ったのは、海外に出ると生死が危ぶまれるからだった。事実暫くして、彼は飛行機の車輪トラブルやロンドン爆破テロに遭遇した。企業戦士だから死とは背中合わせは宿命なのかも知れないが、その気持ちは分かる気がした。
実際死ぬかと知れないと思った体験もある。一つはマレーシアであった。その日は首都のクアラルンプールから東海岸のクアンタンまで、海上の天然ガス基地の視察に出かけた。生憎の雨でツアーを企画したペトロナスの人から「今日は着いてもヘリが飛べるか分かりません」と言われた。
延々小型バスに揺られウトウトとしていた時だった。バスがカーブでスリップしグルグルと廻った。気が付くと崖の中腹で止まっていて、もう一回転していたら下まで転落していた。其の日は引き返すのかと思って居たら、何もなかったかのようにツアーは続行されマレーシア人の能天気さにも驚いた。
もう一つはパリである。当時はアルジェリア系イスラム組織のテロが頻発していた頃だった。今の銃撃事件ほどは激しくなかったが、時々パリでも爆破が起きた。其の日はいつものように凱旋門を通って車を走らせていた。会社に着くと、その通勤路でゴミ箱が爆発したニュースが報じられていた。数分遅れていたら巻き込まれていた。
尤もNYの9.11で命を落とした人は多いし、交通事故に遭ったりスパイ容疑で拘束される人もいる。企業戦士だから色々ある。