Fさんは秋田の中学を卒業して上京した。訓練学校を経て最初に入ったのが池袋の店だった。暫くすると、同僚から「俺が手伝っている店の人手が足りない。来ないか?」と誘われ目白の店に移った。全部で5席の店だったが、当時は普通の人なら二ヵ月に三回は散髪に行く時代だったので稼ぎも良かった。
人柄が温和で腕もいいFさんは、直ぐに主人に気に入られた。そして何年かすると店の一人娘を貰って独立した。移った先は仕事仲間に紹介された杉並の路地裏だった。以来50年以上に渡って地元で仕事を続けた。
店を持つのと前後して、偶然に私も近所に引っ越した。以来今日まで続いている訳だが、子供の頃に「よく漫画読んでいたね!」とか「お母さんの書いた、こう切って下さいのメモを持ってきた」なんて話を聞かされると懐かしい。
店は元に戻して貸し出すという。ハサミ1本で店と自宅も購入し借金も返した。立派な人生と言うしかない。
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