Sunday, 30 April 2023

店仕舞いする床屋

永年お世話になっている床屋がある。ご主人のFさんとはもう彼是60年以上の付き合いになろうか、そのFさんも84歳になり、体力的にも限界でこの度店を閉める事になった。先日最後の散髪を終えて、長かったようでアッと今に過ぎた時間を振り返った。
 
Fさんは秋田の中学を卒業して上京した。訓練学校を経て最初に入ったのが池袋の店だった。暫くすると、同僚から「俺が手伝っている店の人手が足りない。来ないか?」と誘われ目白の店に移った。全部で5席の店だったが、当時は普通の人なら二ヵ月に三回は散髪に行く時代だったので稼ぎも良かった。 

人柄が温和で腕もいいFさんは、直ぐに主人に気に入られた。そして何年かすると店の一人娘を貰って独立した。移った先は仕事仲間に紹介された杉並の路地裏だった。以来50年以上に渡って地元で仕事を続けた。

店を持つのと前後して、偶然に私も近所に引っ越した。以来今日まで続いている訳だが、子供の頃に「よく漫画読んでいたね!」とか「お母さんの書いた、こう切って下さいのメモを持ってきた」なんて話を聞かされると懐かしい。 

 店は元に戻して貸し出すという。ハサミ1本で店と自宅も購入し借金も返した。立派な人生と言うしかない。

Wednesday, 26 April 2023

交通事故の確率

暫く前に、倶楽部の駐車場で停めてあった車に接触しまった。その日は雨が降りそうで慌てていたのが良くなかった。シュっという音がして、バンパーに3cm程の擦り傷が付いてしまった。相手の車は高級そうなベンツだった。早速持ち主のNさんの処に飛んで行って謝った。

勿論車両保険があったのでおカネの面では心配はなかったが、修理代が100万円と聞いてビックリした。バンパーをちょっと板金すれば済むと思いきや、最近は全て交換するらしく、修理中の代車代も大きかった。 

 ただこれはまだいい方だ。先日家の近くの交差点で交通事故があった。たまたま通り掛かったのだが、パトカーが来て被害者と思われるけが人を介抱していた。隣には当てたベンツと加害者が立っていた。初老の紳士だったが、彼の人生がこの瞬間大きく変わったように思えた。

 日本の場合、1年間に交通事故の被害に遭う人は国民の0.2%、交通事故を起こす人が0.4%という。つまり国民の250人に1人の割合で、交通事故の加害者になっている。一見少なそうにも見えるが、これが宝くじなら当たりそうな気分に思えるから怖い。

用心用心、気を付けて運転するしかない。

Tuesday, 25 April 2023

I feel Coke の時代

コカ・コーラのCMに、懐かしの「I feel Coke」が戻って来た。あれは80年代後半だったか、バブルの絶頂期に流れた名CMのリバイバルである。 

あの時歌っていたのは佐藤竹善、張りのある声で「初めじゃないのさ、何時でも一緒なら、今何か感じてるコカ・コーラ・・・」は明るくて壮快感があった。

何より出演のタレントが洗練されていた。ハーフのケン・プレニスは黒縁眼鏡でインテリ感を出していたかと思うと、女性も丸の内や大手町のOLを思わせる雰囲気があった。松本孝美さんの爽やかな笑顔が良かった。最後に振り返るシーンを見ると元気が出てきた。

それに比べ、今のヴァージョンは何か地味である。コークの弾ける雰囲気が殆ど伝わって来ないと思うのは私だけだろうか?

出演の綾瀬はるかは有名な女優かも知れないが、ちょっと年配過ぎる。歌っているのも水曜日のカンパネラとかで、これを機会に初めて名前を覚えた。それでも最近のコークのCMに比べると、この曲の選定といい随分と明るくなってきた。これもデフレの終息と関係しているのかも知れない。

 処で最近坂本龍一さんが亡くなった。バブルの頃、そのYMOのメンバーの細野さんが経営する「Shirin」という南麻布のバーに良く通った。カウンター越しの障子の色が変わるので、仕掛を聞くと裏にテレビが置いてあった。障子の格子がTVの赤青黄の色を分解するとかで、変に感心した記憶がある。 IWハーパーやタンカレートニックを覚えたのもその頃だった。坂本さんの訃報を聞いて当時を思い出した。

Saturday, 22 April 2023

多重人格者の犯罪

 先日大分で、母親が小学一年生の自分の娘を殺害したが、心身喪失で不起訴になったというニュースがあった。詳しいことは分からないが、何時もこの精神鑑定には疑問を持っていて釈然しない思いがある。

そんな矢先、シドニー・シェルダンの「Tell Me Your Dreams」を読むと、少しその気持ちも揺らいだ。

物語は西海岸に住む若い女性が3人の男を殺害した処から始まる。犯行は男の局部を切断する凶悪さがあった。調査を進めていく内に、犯人の女性は多重人格障害である事が判明した。普段は普通の女性だが、男性とベットに入ると突然人が変わり凶悪になるのであった。

その原因を探ってみると、子供の頃に父親から受けた性的被害が原因だと分かった。いざという時になると父親がトラウマになって現れるので、もう1人の自分が発狂してしまうのであった。

予想に反して裁判では無罪になり、精神病院で治療を受けると蘇生して行った。タイトルの返事は「普通の人になりたい!」だった。その切なる思いに少なからず同情してしまった。

小説の巧みな展開にすっかり魅了されてしまったが、だからと言って犯行の事実は無くなる訳ではない。犯人が年配の女性だったらここまで寄り添う気持ちにもなれない。相変わらず複雑な気持ちだけが残った。

Tuesday, 11 April 2023

snuff film

シドニー・シェルダンの小説Bloodlineに、「snuff film」という言葉が出て来る。街で声を掛けて少女をリクルートしてポルノ映画に出演させ、恍惚が絶頂に達した時に喉を締める映画であった。snuffは蝋燭をフッと消す意味なので殺人娯楽映画である。

正に犯罪を見世物にした作品で、撮る方もそうだが観る方も気色悪い事この上ない。悪趣味も度を越していて一般感覚では理解出来ないが、それを趣味にする闇世界があるというから驚きである。物語では映画製作のカネがファミリーの犯人から流れていた。

 ヨーロッパにはこうして闇に消えていく身元不明の少女が多いという話は昔から聞く。背景にあるのは貧困と治安の悪さである。思い出すのは「ドラゴンタトゥーの女」である。舞台はスウェーデンのストックホルム、主人公のリスベットが殺人鬼を追い詰めると、餌食になった若い女性が浮かび上がってきた。

映画「ゴッドファーザー」でも政敵を追い詰める時に使われていた。政敵は目が覚めると、隣に血だらけで死んでいる女が横たわっていた。仕組んだマフィアは「この女には身寄りもいないから、黙っていれば秘密に出来る」と貸を作るのであった。

 華やかな表通りから一歩裏路地に入ると、ひと気のない暗い石畳が夜露に濡れて鈍い光を放っている。そんな光景を思い出した。

Tuesday, 4 April 2023

血縁とカネ

毎日ワイドショーで欠かさず出て来るのが、窃盗・殺人である。殆どの動機がカネに絡んでいる。本人の持ち金が尽きたケースから、借金の返済まで様々だ。僅かばかりのカネ目当てで人まで殺めてしまうのは本当に馬鹿げている。洋の東西を問わず、カネは人をメクラにする。

シドニー・シェルダンの「Bloodline(血族)」という随分昔の本があった。浪費家の妻を持った議員がカネに困り、殺人を犯してしまう話である。

彼は世界的製薬会社のファミリー株主であった。日常の資金繰りに困り、思いついたのは持ち株の公開だった。同族が経営する会社の株を売れば大金が入ってくる。その為に公開など毛頭考えていない従弟の経営者を抹殺するのであった。賛同したのはやはり従妹の旦那だった。彼はスキーのインストラクターだったが、カネ目的で一族の娘と結婚した男だった。 

結局事件は失敗に終わるのだが、その華麗なる一族がとてもユニークだった。先代はポーランドのユダヤ人で、子供5人を米、英、独、仏、伊に散らせた。あれ?どこかで聞いたことがあるなと、思い出しのはロスチャイルド一族だった。此方もドイツで生まれたユダヤ人が、息子5人を独、英、伊、仏、墺の5か国に分散させて発展を遂げた。これはひょっとしてそのパクリかと思ったが、小説はとてもよく書けていた。

先の2人の犯人は英国とドイツに渡った末裔であった。会社を引き継いだのはアメリカに渡った長男とその娘で堅実な血族だった。フランスに渡った娘は資産に恵まれプロドライバーになっていたり、イタリアの末裔は妻と愛人にそれぞれ3人づつの子供を設けるドンファンと、お国柄も反映していた。 

ところで小説の中に先代のユダヤ人がゲットーから抜け出すと、「シレジア(Silesia)に送られてしまう!」というセリフがあった。今のシレジアはポーランドの南部でチェコ国境の辺りである。所謂炭鉱地帯だが、以前旅した時は全くそんな僻地には見えなかった。ただ当時は正にシベリアみたいな場所だったみたいで、その理由がやけに気になったりした。