馬鈴を重ねて人生を振り返ると、失敗談ばかりが出てくる。「反省は年寄りの特権」と誰かが言っていたが、正にその通りで困ったものである。
その一つが英語である。未だに語彙は少ないから原書も真っ当に読めないし、映画を見ても何を言っているのか分からない。昔英語でプレゼンした時、上司から「それじゃダメだ!」と言われた事があった。その時は「何で?」と思ったが、今になってその意味が分かり恥ずかしくなっている。そして「俺は本気で勉強したのだろうか?」と、安易に過ごして来た日々を後悔するのであった。
そんな事を思い出させたのが、田澤耕氏の「カタルーニャ語、小さなことば、僕の人生」の一冊だった。同世代の氏は、東京銀行からスペイン留学を経て、カタルーニャ語の権威になった。ひたすら好奇心と知的生活を追って行く内に、気が付くとゴールに立っていた自然体が、読んでいてとても快かった。
外国に憧れてた動機は俺と同じでも、学生時代から英語の翻訳は友人から「これで食っていけるよ!」と言われるレベルだったと言う。仕事の傍らに受けた日仏の通信講座も、俺も試したが成績も良かったようだ。成る可くしてなった人だったのかも知れないが、やはり本気度が全然違っていた気がした。
本の最後に癌に冒されている事を述懐していた。まるで遺書のようで、上り詰めた一本の人生を総括しているようだった。人生で出会った人に後年助けられる話や子供の教育など、人間的にも立派な人だったのが伝わってくる。斯くしてスペインの空気の中で送る余生も理想だし、俺もこんな生き方をしたかったと、誠に羨ましく思えたのであった。