Thursday, 12 May 2022

ロシア人のパラノイア

随分昔の本だが、W.Adlerの「シベリア横断急行(Trans-Siberian Express)」という小説があった。余命が迫ったソ連の書記長が、核のボタンの葛藤を描く物語である。アメリカ人の医師やKBGも同じ列車に乗り合わせ、シベリアの荒野を舞台にドラマが続いた。

小説としては今一面白みに欠けていたが、訳者が後書きでロシア人の偏執病(パラノイア)に触れていたのが興味深かった。それは、アメリカが中国に肩入れし過ぎると、ロシア人のパラノイアに火を付け掛けかねないと、著者が警告するエピソードである。

偏執病は、「他人の敵意を勝手に想像して一連の妄想を抱く事」である。時代は変われど正に今のプーチンそのものであるが、一体このロシア人の性癖はどこから来るものなのだろう? 

私は兼ねがねそれは、ロシアの地政学と関係していると思っている。つまり一年中を通して殆どが冬の閉ざされた土地に住むと、人は忍耐強くなる一方で、牢屋に閉じ込まれているような気分になり、それが被害者意識に繋がっていくという説である。

彼らは西洋人が四季に恵まれ、夏の太陽を十分浴びる光景を見るにつけ、同じ人間だから常日頃から妬みと不平等感を持っている。太陽信仰の一種だが、アフガニスタンやグルジア、嘗てのオスマン帝国、そして今回のウクライナへの侵攻も、そんな心境に根ざしているのは間違いない。

因みに余談だが、訳者の故中野圭二氏は「シャドー81」など多くの翻訳を世に送り出している。学生の頃英語の授業で習った事があったが、黒縁の眼鏡と胃が悪いのではないか?と思わせるニヒルな風貌で、如何にも学者らしい人だった。

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