Saturday, 2 April 2022

オークニー島のスパイ

古い本だが、ライト・キャンベルの「座って待っていたスパイ(The Spy Who Sat and Waited)」は大変面白い小説であった。

第一次大戦が終わった頃、ドイツである男が「スパイにならないか?」と声を掛けられる。男は承諾すると訓練を経てスイスに送られる。そこでスイス人になり、スコットランドのオークニー島に行くように指示が出る。オークニー島にはイギリス艦隊の軍港があったからだ。それから20年、男はそこで結婚して酒場を持ち、すっかり土地の人になり切る。ところが第二次大戦が勃発すると本国から指令が出て、スパイに戻るのであった。 

その生き様は、フィリッピンの島で戦後29年も隠れていた小野田さんに似ていた。ただ国に尽くすという点では同じだが、運命を受け入れ時代に逆らわずに生きる生真面目さは、如何にもドイツ人らしかった。

舞台になったオークニー島を10年ほど前に旅した。フェリーで揺られること3時間、3000年程前の石器時代の遺跡や、最北のウィスキー醸造所のハイランドパークなど、旅情たっぷりの島だった。

小説では主人公が港町ストロムネス(Stromness)でセーリング・マスターという名のパブを経営していた。名前こそ違ったが、全く同じようなパブの2階に泊まったので物語に入り込んだ気分になった。 

開戦時にここで、Uボートが戦艦ロイヤルオークを撃沈した話も出て来た。ウィスキーで有名なScapa Flowで主人公が誘導してスパイの仕事をするのだが、知っていれば旅のメニューが増えていた。

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