名所旧跡も殆どないので、車を走らせても目に入ってくるのは海岸線と森だけだった。観光的には全く詰まらない旅だったが、ある時首都のリガの郊外で古い貨物列車が置かれているのを見つけた。人影もなく寂しい場所だったが、立ち寄ると戦時中にユダヤ人を移送した貨車だと分かった。
実はこの正月、フレデリック・フォーサイスの「オデッサファイル」を読み直しているとその貨車が出て来た。戦時中にベルリンとウィーンから移送した58輌の貨車だった。乗っていたユダヤ人は延べ20万人、内8万人がリガで死亡し、残りの12万人がポーランドの最終処理場に送られたという。4年前にその収容所巡りもしたので点と点が繋がり、今更だがその遠大な計画に驚くのであった。
小説はリガの収容所長だった男を見つけ出す若者の物語である。ただ彼はユダヤ人ではなく生粋のドイツ人であった。動機は彼の父を殺したのがその収容所長だったからである。オデッサはSSと称するナチ幹部を匿い支援する組織である。昔はウクライナの港町の名前かと勘違いしていた。緻密で軽快な展開にどんどん引き込まれた。この冬の夜長はまたフォーサイスを漁ってみようかという気になって来た。
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