Thursday, 6 January 2022

オデッサファイル

10年程前にラトビアを旅した。最初は冬、2回目は夏だった。どちらも安いホテルに泊まったのが災いし、真冬にシャワーのお湯が出なかったり、夏は夏で元兵舎みたいな宿に泊まると、シーツなしの汗臭いマットで一睡も出来なかった。

ラトビアはバルト三国の中でも治安が良くないとは聞いていた。原因は本国に帰れずにいる無国籍のロシア人の多さである。人口180万人の内2割近くの35万人もいる。歩いていると普通にカネをせがまれるし、子供が演奏している大道芸人から小銭を盗んだり、酒の入った若者がレストランで騒いだり、中々他国では見られない光景が続いた。 
 
名所旧跡も殆どないので、車を走らせても目に入ってくるのは海岸線と森だけだった。観光的には全く詰まらない旅だったが、ある時首都のリガの郊外で古い貨物列車が置かれているのを見つけた。人影もなく寂しい場所だったが、立ち寄ると戦時中にユダヤ人を移送した貨車だと分かった。

実はこの正月、フレデリック・フォーサイスの「オデッサファイル」を読み直しているとその貨車が出て来た。戦時中にベルリンとウィーンから移送した58輌の貨車だった。乗っていたユダヤ人は延べ20万人、内8万人がリガで死亡し、残りの12万人がポーランドの最終処理場に送られたという。4年前にその収容所巡りもしたので点と点が繋がり、今更だがその遠大な計画に驚くのであった。

小説はリガの収容所長だった男を見つけ出す若者の物語である。ただ彼はユダヤ人ではなく生粋のドイツ人であった。動機は彼の父を殺したのがその収容所長だったからである。オデッサはSSと称するナチ幹部を匿い支援する組織である。昔はウクライナの港町の名前かと勘違いしていた。緻密で軽快な展開にどんどん引き込まれた。この冬の夜長はまたフォーサイスを漁ってみようかという気になって来た。

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