Monday, 22 November 2021

モンテネグロのハイウェー計画

4年前にモンテネグロを旅した。前の晩はボツニア・ヘルツゴビナのヴィッシェグラードという小さな町に泊まった。そこはドリナ川とそれに架かる石橋があり、ノーベル文学賞の小説「ドリナの橋」の舞台であった。早速帰国して読んでみたが、何世紀にも渡るバルカンの歴史を、一つの橋を通してユーゴの作家が語る中々味のある小説であった。 

翌日は険しい山間を縫ってモンテネグロに入った。一帯はセルビアとモンテネグロの国境も交じり合う場所で、ボツニア・ヘルツゴビナ領で道に迷ってウロウロしていたら、道を聞いた地元の女性が険しい顔で「付いてきなさい!」と検問まで車で誘導してくれた。ユーゴ内乱の時にジェノサイドが行われた場所も近くにあり、今でもその緊張感が伝わってきたのであった。

そのモンテネグロへの道のりは、岩山の間を縫うような山道が続き、最後はアドリア海に向かって一挙に下るコースであった。特に最後の首都ポトゴリッツアに差し掛かる辺りは、エンジンブレーキを掛けても中々減速しない恐ろしい急こう配であった。 

 先日NHKの番組を見ていたら、そのモンテネグロに中国が高速道路を作ったと報じていた。数年前からモンテネグロは、セルビアと繋ぐ全長445kmの高速道路を中国の借款で進めていた。もう40%が完成したというが、映像を見ると高架でスリル満点の道路が出来ていた。

問題はその規模と採算だった。モンテネグロは何と国のGDPの1/5に当たる10億ドルを、その道路のために中国から借りたのだ。これから先未だ更に10億ドルものカネが掛かるという。急こう配の国土に90のトンネルを掘り、40の橋を作ったと云うから、聞いただけで大胆な計画であった。
  
マスコミは「一体誰がこんな道路を使うのか?」、「Death Road(国が死んでしまう道路)」、「Billion dollar motorway leading Montenegro to Nowhere(行き先のない高速道路)」と批判していた。

確かにユーゴ解体後、一時は又モンテネグロとセルビアは復縁する話もあった。だから両国は親密な関係だったのかも知れないが、それにしてもセルビアすら高速道路は少ないのに、況や人口60万人のモンテネグロが単独で建設するのはEUの常識から逸脱している。透けて見えるのは、海のないセルビアのノスタルジーと、それに付け込む中国であった。

中国の一帯一路は、既にスリランカやイタリアなどで問題になっているし、EUはやっとその正体に気が付き始めたようだ。この高速道路もこのまま行けば中国に抑えられてしまうのは時間の問題だ。また恐ろしい現実を知ってしまったのである。

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