広瀬隆氏の小説「いつも月夜とは限らない」は氏にしては詰まらなかった。ただBCCIの金融犯罪を題材にいていたのに興味をそそられた。金融事件と言えばマドフの詐欺事件やベアリングの倒産などは記憶にあるのに、何故かBCCIは疎遠であった。と云う事で早速「犯罪銀行BCCI(The Outlaw Bank)」と「犯罪銀行BCCIの興亡(Bankrupt :The BCCI Fraud)を取り寄せて読んでみた。特に前者は、事件をスクープしたタイム誌の記者が書いたものだけに取材の量がケタ違いに多かった。
ただどこまで読んでも何が核心なのか、余りにも多くの人と複雑なカネの流れが出てきて正直よく分からず仕舞いだった。例えばアラブの王様の出資金はケイマンのペーパーカンパニーに移り、廻り回ってアラブのファミリーがロンドンで買い物する口座に入ったり、「イスラムの施し」と呼ぶ接待費は賄賂に回った。CIAが関与した武器取引の決済も手が込んでいた。BCCIの犯罪が明るみになる切っ掛けになったのが、ソ連のアフガニスタン侵攻だった。アメリカはCIAを通じパキスタンに武器を供与し、カネはアラブ諸国に出させその決済をBCCIで行った。特にアメリカの大物弁護士クリフォードが経営するアメリカの銀行が実はBCCIの子会社だったり、この辺のカラクリはアメリカ政治に詳しくないと中々分かりづらいし箇所であった。
創業者のアべディを生み育てたパキスタンという国も気になった。親子で処刑と暗殺の悲劇に会ったブット大統領、彼女を暗殺した将軍も処刑されるという凡そ日本とは真逆の激しい国である。アべディが作ったBCCIは、ルクセンブルグで登記し本拠地はペーパーカンパニーのケイマンに置きながら表向きはロンドンで活動するなど、そのプロセスも尋常ではなかった。BCCI事件を扱った映画「ザ・バンク、堕ちた巨象(原題:The International)」も合わせて観た。流石に本質には迫れていないが、クライブ・オーエン演じるインターポールの捜査官がリアルで迫力があった。それにしても武器や麻薬を通じたマネーロンダリングとはいえ、30年で世界69ヵ国に200億ドルの資産を築いたのは凄い。
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