Wednesday, 30 June 2021

BCCI事件とは

広瀬隆氏の小説「いつも月夜とは限らない」は氏にしては詰まらなかった。ただBCCIの金融犯罪を題材にいていたのに興味をそそられた。金融事件と言えばマドフの詐欺事件やベアリングの倒産などは記憶にあるのに、何故かBCCIは疎遠であった。と云う事で早速「犯罪銀行BCCI(The Outlaw Bank)」と「犯罪銀行BCCIの興亡(Bankrupt :The BCCI Fraud)を取り寄せて読んでみた。特に前者は、事件をスクープしたタイム誌の記者が書いたものだけに取材の量がケタ違いに多かった。

ただどこまで読んでも何が核心なのか、余りにも多くの人と複雑なカネの流れが出てきて正直よく分からず仕舞いだった。例えばアラブの王様の出資金はケイマンのペーパーカンパニーに移り、廻り回ってアラブのファミリーがロンドンで買い物する口座に入ったり、「イスラムの施し」と呼ぶ接待費は賄賂に回った。CIAが関与した武器取引の決済も手が込んでいた。BCCIの犯罪が明るみになる切っ掛けになったのが、ソ連のアフガニスタン侵攻だった。アメリカはCIAを通じパキスタンに武器を供与し、カネはアラブ諸国に出させその決済をBCCIで行った。特にアメリカの大物弁護士クリフォードが経営するアメリカの銀行が実はBCCIの子会社だったり、この辺のカラクリはアメリカ政治に詳しくないと中々分かりづらいし箇所であった。 

創業者のアべディを生み育てたパキスタンという国も気になった。親子で処刑と暗殺の悲劇に会ったブット大統領、彼女を暗殺した将軍も処刑されるという凡そ日本とは真逆の激しい国である。アべディが作ったBCCIは、ルクセンブルグで登記し本拠地はペーパーカンパニーのケイマンに置きながら表向きはロンドンで活動するなど、そのプロセスも尋常ではなかった。BCCI事件を扱った映画「ザ・バンク、堕ちた巨象(原題:The International)」も合わせて観た。流石に本質には迫れていないが、クライブ・オーエン演じるインターポールの捜査官がリアルで迫力があった。それにしても武器や麻薬を通じたマネーロンダリングとはいえ、30年で世界69ヵ国に200億ドルの資産を築いたのは凄い。

Saturday, 26 June 2021

愛情をセットしたAI

産総研が開発した「パロ」というロボットがあった。アザラシの形をした癒し系のロボットで、お年寄りを対象にして作られた。随分前にあるホテルの受付で見た事がある。年配の一人客用に貸し出していた。開発した大学の先生は、本物のアザラシを見に何度もアラスカまで足を運んだようだ。また国際実証実験と称して、国内の老人ホームは元よりスウェーデンの老人ホームにも置いてデータを収集したという。最初はそんなにお金を掛けて売れるのかな?と心配されたが、未だにネットで販売が続いていたから成功したようだ。

そんな中、先日銀座のSONY館に犬ロボットのAIBOを見た行った。友人のAさんが随分前から飼っていたので「これか!」と思った。早速名前を呼ぶとやって来た。目の動きが愛くるしく時々吠える。暫く見ていると愛着が湧いて来て、隣で観ていたおばさんなど何回も連呼してすっかり嵌っていた。都度進化する成長モードは飼い主を飽きさせない。勿論下の世話や散歩もしなくて済む。一人暮らしや老人ホームに入ったら、結構心強いパートナーになる気がして来た。 

AIBOを見ていて、「AI(Artificial Intelligence)」というSF映画を思い出した。子役で有名なハーレイ・オスメント演じる少年ロボットが主人公である。彼は飼い主に捨てられるのだが、人間への愛情をセットされていたので「一日だけ人間になって(飼い主だった)母親の愛情を得たい!」と願う。コロンビア映画の自由の女神の前で、何度もそれを訴えるシーンはとても切なく感動的であった。結局願いは叶えられるのだが、もうここまで来ると人間以上である。

Thursday, 24 June 2021

博士の異常な愛情

福井県の美浜原発3号機が再稼働された。40年を超える原発の再稼働第一号という。これで現在稼働している原発は10基になったのだろうか、当初は40年で廃炉する話がいつの間にか60年になり本当に大丈夫なのだろうか?心配は尽きない。そう言えば1年で1ミリシーベルトだった被曝許容線量も、いつの間にか20ミリシーベルトに引き上げられた。素人は何が本当なのか知る術もないが、コロコロと緩和される基準に不信感が募るのも無理ない。

原発は福島の事故で全基を停止した。都会の町は節電で薄暗かったのを思い出すが、それでも2年間は全く停電が起きなかった。それにも拘わらず又いつの間にか再稼働が始まりこれで10基になったのだろうか?喉元過ぎれば熱さは忘れるというが、同じ過ちを繰り返しているような気になってくる。況や未だ立ち入りが禁止されている被曝地域があったり、核のゴミ処理場も未解決というのに・・・。何となく透けて見えるのは、それに携わっている人たちの思いである。政府始め電力会社、メーカー、銀行、大学、マスコミなど原子力を仕事にしている人は多いが、皆んな異常な執着を持っている。それはケタ違いのお金から来るのか、将又原子力という最先端に携わるエリート意識なのか分からないが、外から見るとやはり特殊である。 その執着心が大きなモメンタムを生んでいる。

随分昔の映画だが、スタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情(Dr.Strangelove)」という作品があった。副題が「私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったのか」の通り、原爆投下に異常な愛着を持つ人達をパロディー化していた映画である。観ていて分かるのは、原爆の持つその大きな破壊力である。人は一度その力を知ると取り付かれて果ては狂人化するのである。ワーグナーの歌劇「ニーべリングの指輪」や「ロード・オブ・ザ・リング」も世界を支配する指輪の話であったから似ている。独断で核攻撃を指示する司令官のモデルは、広島に原爆を落としたカーチス・ルメイというオチまで付いていたが、一度その力を手に入れると又使いたくなるようだ。

Wednesday, 23 June 2021

吉永小百合さんと水泳

暫く前だが、女優の吉永小百合さんが健康維持について語っていた。彼女は週に4~5日プールに通い、毎回1kmを泳ぐという。25mプールなら20往復になるから中々の運動量である。お歳の割には若々しく見えるのはその為かと思った。同じ様にスポーツに精を出している者にとっては、仲間が出来たようで嬉しかった。

私の場合、多くはテニスとゴルフだが、週に平均すると4回のペースになるだろうか?昨年はジョギングやスキーなどを入れると210日になった。他人から「よく毎日やって飽きないね!と冷やかされる事もある。その時は長続きの秘訣を開陳している。それは手帳の色分けである。例えばテニスは緑、ゴルフは青、山登りはオレンジという風に、終わるとマーカーで斜線を引く。すると一目でその週の運動量が分かる。色の少ない週は物足りなく、5日も塗り潰せば充実した感触が伝わってくる。それからテニスなら勝率、ゴルフならスコアを付ける。それを年が終わると集計して時系列で比較するのである。すると自ずと前年の数字を上回りたいという気持ちになってきて、それが励みで頑張ってしまう。 

ただ何事も楽しくないと長続きしないし、独りで頑張るのも限界がある。やはりゲーム性は必要だし、仲間がいてはじめてやる気も湧いてくる。だからライザップのようなジムは好きになれない。体つくりは目的ではないし、そもそも自身の肉体改造を見て喜ぶ趣味もない。80歳を過ぎて毎年100日のゴルフを続けるTさんや、週6日のテニスのKさんなど上には上がいる。吉永さんではないが、その人達を見ていると「俺もまだまだだなあ」という気持ちになってくる。

Sunday, 20 June 2021

タンタンのコンゴ

先日、中国の原発で放射能漏れが出た。中国政府は勿論否定していたが、面白かったのは解説で登場した日中協会の日本人専門家だった。元IAEAの某氏は同じように「心配はない」を繰り返していた。IAEAは原子力の推進者だから、懸命に中国をかばっていた姿が印象的だった。中国の原発は核兵器と一体となっているから怖い。昔作家の上坂冬子が上海の秦山原子力発電所に取材に行った時、来賓室で見せられたのは原爆実験の映画だと言っていた。
 
思えば最近、それと知らずに原発に関わって来た事に気が付く。例えばフランスで「タンタンの冒険(Les Adventures de Tintin)」という、国民的人気を誇った漫画があった。云わば「のらくろ」のフランス版だが、主人公の少年がアフリカのジャングルで活躍する件がある。今から思えばそこはベルギー領のコンゴ(今のザイール)で、当時ウランの一大産地であった。タンタンはその案内人だった。また人質救出の映画「ワイルドギース(Wild Geese)」もある。リチャード・バートン演じる大佐は、コンゴ動乱で活躍したアイルランド人のマイク・ホアーがモデルであった。脱出した飛行機が着陸するのがローデシアだから、強ち舞台はそのコンゴだったのだろう。こちらもイギリスを巻き込んだウラン獲得の主導権争いだった。 

また最近のコロナ渦で、国立感染症研究所の所長さんがよくテレビに登場する。(広瀬隆氏の請負だが)実はこの研究所の前身は国立予防衛生研究所(予研)で、広島、長崎の原爆被害の研究機関だった。アメリカのABCC(原爆傷害調査委員会)が、マンハッタン計画の続編として戦後間もなく日本に作った支部であった。まさか今回はアメリカ製ワクチンのモニターをやる訳ではないだろうが、ひょんな処で細菌と原子が結び付いた。

Wednesday, 16 June 2021

愛犬の死と原発

愛犬が死んでひと月が経った。相棒が居なくなり急に心細くなった。近所の人気者だった。日中は柵の下から道路の方に足を出していた。そうすると通行人が気が付いて頭を撫て貰えた。小さな子供も「ワンワンがいた!」と寄って来た。最後は水も飲まなくなり、気が付くと息が途絶えた。未だ8歳だったので早かった。ゴールデンレトリバーは10-12年というのに・・・。死因は内臓に問題があったようだ。今から思えば癌だったかも知れない。

その犬が生まれたのは2011年7月の福島だった。知り合いのブリーダーを介してタダみたいな値段で譲ってもらった。当時は東北の震災の直後だったので、引き合いが無かったのだろうと思った。しかしこうして身近の死と向かい合うと、改めて放射能と癌の関係について考えない訳には行かなくなった。放射能は細胞の増殖を阻害すると言う。だから子供ほどその影響が出るようだ。愛犬も知らない内に蝕まれていたのだろうか?  そんな事もあって最近は原発の本ばかり読んでいる。

小出裕章で原子力の基礎を、広瀬隆で今に至るこの世界の歴史を習っている。始めは炭素記号や専門用語に拒否反応が出たが、何冊か消化して行く内にそれもなくなって来た。ただ知れば知る程、無力感に包まれて行くのはどうしてなのだろう?昨日は東電の所長だった吉田昌郎の戦いを描いた門田隆将の小説を読んだ。映画の「チャイナ・シンドローム」のような現場の凄さは、正に百聞は一見にしかずであった。小泉さんではないが、原発は「安全でコストが安くクリーンは全くのウソ」はその通りである問題は「それでどうする?」になる。

Thursday, 10 June 2021

人種偏見

アメリカでアジア人の差別がエスカレートしている。路上で突然襲われたりするからおちおち旅も出来ない時代になってきた。トランプ元大統領のエキセントリックな発言が分断を呼んだのか、将又中国の脅威の裏返しなのか分からないが、それにしても恐ろしい世の中である。

人種の偏見は人の心に潜むから根は深い。先日も知人が賃貸でアパートを貸しに出した所、アフリカ人が借りたいと名乗り出たという。信用調査はクリアし一見問題なさそうだったが、やはり契約の段階になると躊躇したようだ。普段気が付かなかった人種への偏見が、思わぬ所で顔を出した。 

いくら気を付けても、他人の偏見に触ってしまうこともある。欧州史の権威で元一ツ橋大学長の阿部謹也氏が、「物語ドイツの歴史」の冒頭でその失敗談を語っていた。それはドイツのレストランで働く女性に、「あなたはポーランド人?」と聞いた途端に不機嫌になってしまったという件である。以前仕事で知り合ったドイツ人も同じような事を言っていたので、これは良く分った。彼はドイツのTVコマーシャルで、ドイツ人の旅行者がポーランドの田舎で車を止めて用を足して戻ると、車が盗まれていたというエピソードを語っていた。その時は、日本でも戦後にモノが無くなると、韓国人の仕業にする風潮があった話で盛り上がった記憶がある。洋の東西を問わず、隣国には厳しいのは万国共通である。日本人も影では黄色い猿と言われている。この手の類には上手く付き合うしかない。

Saturday, 5 June 2021

クロアチアのアドリア海

朝起きると、昨日のローランギャロス2回戦のビデオを放映していた。フェデラーとクロアチアのチリッチの好カードである。フェデラーにとっては怪我からの復帰戦になるのでどうなるかと心配していたが、動きも良く快勝した。両者の対決は2017年のウィンブルドン決勝以来である。あの時は途中でチリッチが足に豆を作り、ドクターを呼んで治療していた。彼はベンチで「こんな大事な時に・・・」と、涙を流していたのが印象的だった。

その対戦をたまたま旅行中のクロアチアで観た。リエカという港町のパブだったか、日曜日の午後で客は少なかった。地元のヒーローが決勝に残ったのでさぞかし盛り上がると思いきや、テレビを見ている人は疎らだった。思わず「おい、地元のチリッチが出ているぞ!」と言っても殆ど反応がない。仕方がないので一人で盛り上がった記憶がある。 

その日はアドリア海に面した小さな漁村を発った。前夜に飲んだワインがまだ頭に残っていたか、泊まった宿はそのレストランの2階で、主人に代金を払い鍵を返さねばならなかった。ところが日曜日の朝という事もあり、店は静まり帰っていて出て来る気配はなかった。どうしたものかと困っていると、水着姿の可愛い少女がやってきて「どうしたの?」と声を掛けてくれた。事情を話すと主人は別の処に住んでいる事が分かった。結局部屋に戻って手紙とお金を置いて出たが不安は残った。眩い太陽とどこまでも続くアドリア海、対岸の島がアラビアの砂丘のようで、その褐色がアドリア海の青と相まってそれは美しかった。

Wednesday, 2 June 2021

「荒鷲の要塞」ロケ地

巣籠生活も2年目に入った。その暇つぶしの一つで、今年は嘗て愛読したアリステア・マクリーン(Alistair MacLean)を極めようと何冊か買い込んだ。彼は戦争・冒険小説のフィクション作家である。戦争をノンフィクションにするとニュースになってしまうのでちっとも面白くないが、彼はそれを想像力逞しく物語にする天才である。という事で、まず「荒鷲の要塞(Where Eagles Dare)」から始めた。この作品は映画の方が有名で、リチャード・バートンとクリント・イーストウッド演じるスパイが、ドイツの古城から同胞を救出するハラハラドキドキの作品である。二重三重のエージェントの工作に読者も翻弄させられ何度見ても飽きないが、改めて本に触れてみた。

まずその古城であるが、小説ではSchloss Adlerと言っていたが、実際はザルツブルグ近郊のHohenwerfen城だと分かった。確かにネットの写真を見ると岩に張り付いた中世の古城でその面影が残っていた。麓のWerfen村は女性エージェントと出会う居酒屋や、逃走用のバスのシーンが出て来る如何にもアルプスらしい村であった。更にここはサウンド・オブ・ミュージックのドレミの歌の舞台にも使われた事が分かった。これは大発見で確かに見ると良く似ていた。 Werfen村の近くにはヒットラーの山荘ベルヒステスガーデンがある。二度も行ったのに、こちらは気が付かなかった。

また城に向かうスリル満点のケーブルカーは、やはりザルツブルグからザルツガンマーグードを東に行ったFeuerkogel山だと分かった。何処かで聞いた名前だな?と思っていたら、3年前に泊まった湖畔の世界遺産の町ハルシュタットの山だった。分かっていれば寄ったのに!と、これも後悔した。実はその撮影場所はドイツ最高峰のツークシュピッツではないかと長らく思っていた。ロープーウェーの駅から眺める景色がそっくりだったからである。以前同僚を連れて登った時、その蘊蓄を話したのが間違えだったと分かった。因みに小説ではドイツ第二の山Weißspitzeと架空の設定になっていた。