Saturday, 22 May 2021

ドイツ民族の心

3年前にポーランドを旅した。戦跡巡りを趣味とする者にとっては、ノルマンジーやワーテルローなどの華やかな表舞台も沙流事ながら、暗い過去にも触れない訳には行かなかった。訪れたのはベラルーシやウクライナ国境近くの多くの強制収容所である。地の果てに寒々しく広がる広大な施設は当時のまま保存されていて、歩いているとヒトの声が聞こえて来るようで怖かった。そんな旅の中で是非行ってみたい所があった。それはドイツ軍の大本営跡である。別名「狼の巣」と呼ばれるヴォルフツシャンツェ(Wolfsschcanze)である。琥珀で有名なグダニスクの町から車で数時間走っただろうか、森の中に佇むブンカーを見に多くの観光客が集まっていた。

コンクリ-の廃墟を歩き回る事一時間、一番のスポットはヒットラーの暗殺未遂に終わったブンカ-跡である。今では取り壊されていたが、1944年7月に側近の大佐が爆弾を仕掛けてクーデターを試みた場所である。トム・クルーズ主演の映画「ワルキューレ」など多くの作品でも見たので、それと重ね合わせ中々臨場感があったのを覚えている。その主役であるクラウス・フォン・シュッタウフェンべルグ(Claus von Stauffenberg)を扱った小説、「Secret Germany」を10年振りに読み返してみた。副題はStauffenberg And The Mystical Crusade Against Hitler(ヒットラーに対抗した謎の聖戦)である。どこか神秘的な響きがあるかと思って改めて著者を見ると、あのThe Holy Blood And The Holy GrailのMichael BaigentとRichard Leighだと分かった。昨年ダ・ビンチ・コードで有名になったキリストの聖地「レンヌ・ル・シャトー」の謎に凝っていたので、確かに同じ匂いが伝わってきた。 
 
Secret Germanyなる言葉は、Stauffenbergが師事したドイツの詩人Stefan Georgeから引用している。中々難解な本だが、ドイツ人がプロイセンから受け継ぐ騎士道と崇高な精神を歴史を絡めて語っている。最初に読んだ時には地元のヴァーヴァリア地方特有の思想かと思ったが、良く読むとそれはFolk Soul(民族の魂)と呼ぶドイツ人全体を指していた。本の中でロシア人を物質主義者と呼んでいたので、それと対比すると分かり易かった。貴族であるStauffenbergは正にその精神の継承者で、それがクーデターの動機にもなった。ヒットラーが民衆の支持を得たのも、皮肉にもその精神を煽ったからである。本には精神の支柱としてゲーテがよく登場した。今まで殆ど縁がなかったがドイツを知る上で不可欠のようだ。これを契機に興味が沸いてきた。

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