先日丸の内の丸善に行くと、店頭に中公新書の「ルワンダ中央銀行総裁日記」が山積みされていた。昭和47年に発行された復古版で懐かしかった。著者は日銀の服部正也氏、若くしてアフリカの中央銀行総裁を委嘱された国際バンカーである。当時は開発経済学に興味を持っていたので、アフリカの最貧国で6年も暮らした様子に感動した記憶がある。就職の時にアンケートで「感銘を受けた本」という欄があったので迷わずこの本を挙げると、暫くして会社の推薦図書になった。それにしても今頃どうして?と不思議だった。
そんな事で本棚から取り出し何十年ぶりに読み返してみると、若い頃に見えなかった景色が見えて来た。例えば当時は氏の赴任経緯や生活振りに感心があり、仕事の中身は二の次だった。ただ本書はあくまで業務報告書だから今回はその仕事振りに感心した。中央銀行を立て直すにはどうするか?著者は帳簿付けから始めたというが、国際収支の項目を一つ一つ数字を掘り下げる手法に「仕事はこうやるのか!」と教えられた。その意味でとても実務的な人だったが、もう一つは稀有の優秀な人だと思った。大統領から経済再建計画案を頼まれると一人で仏語で書き上げて、タイプに回すと完成していた件りでそれが伝わってきた。
ところでそんな忘れられた名著は多い。例えばボブ・ラングレーの「北壁の死闘」やコリン・フォーヴズの「氷雪のゼルヴォス」は暫く前に復古で出ていた。居ながらにして山岳のスリルを楽しめると、アームチェアークライマー(安楽椅子登攀者)なる言葉もその時知った。その頃は山岳小説に凝った時でもあり、夢枕獏の「神々の山嶺」や新田次郎の「孤高の人」も良かった。一押しは何と言ってもハンス=オットー・マイスナーの「アラスカ戦線」である。ドイツ人がアッツ島の基地探索を行う日本兵を描いた異色の作品である。その他ジュール・ベルヌの「アドリア海の復讐」は以前書いた通りだが、ジョン・トーランドの「勝利なき朝鮮戦争」やラリー・ガーウィンの「誰が頭取を殺したか」、アリステア・マクリーンの多くのフィクション小説など、復古させると絶対売れると思うのだが。
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