Sunday, 14 March 2021

伝書鳩の時代

一番好きな本は何か?と聞かれれば、A・デュマの「モンテクリスト伯」である。長編だが何度読み直してもその度に発見があり、深い慈悲と執念に打たれるのである。壮大な復讐劇の末に、最後の一文「待て、しかして希望せよ!」はフィナーレに相応しい名言である。そんな名作をパクッた小説がある。あの「80日間世界一周」の著者、ジュール・ヴェルヌが書いた「アドリア海の復讐」である。ストーリーは良く似ているが、作者が作者だけにこれも格段の出来になっている。

舞台はハプスブルグ帝国が黄昏を迎える19世紀末、アドリア海を囲むヨーロッパとバルカン諸国である。小説の始まりは、イタリアの港町トリエステである。そこで伝書鳩が死んでいて、電文を読むとハンガリー独立派の暗躍が発覚するのであった。伝書鳩と聞いてのどかな時代を思い浮かべたが、最近「The House of Morgan」を読んでいたら、彼らもやはりそれを使っていた。時は普仏戦争の頃というから先の小説と同じ頃である。モルガン商会がフランス公債の引き受けに成功して今日の礎を築いたのであったが、ロンドンとパリの間の交信は伝書鳩だった。ただ鳩は良く撃ち落され、兵士の食用になったというオチもついていた。

モルガンのこぼれ話は面白く、例えば本社のあるNYのWall Street 23に因んで当時の電話番号もHanover5-2323で、社用車のキャデラックの番号もG2323だったという。また野村の田淵社長が「日本の金融国際化で(モルガンが持ってきた)SONYのADR発行が一番画期的だった」と語っていた件や、Jackは日本は好きだが中国を嫌っていたり、お雪だけでなく楽しめた本だった。

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