Sunday, 24 January 2021

忌避の申し立て

随分昔のことになるが、近所の老人が道で倒れた事があった。すかさず通り掛かった人が起こそうとすると、その老人は手を振り払って”余計なことはするな”とばかり立ち去って行った。その人は元軍人だったという噂があったので、プライドが許せなかったのだろうと囁かれた。もう今ではお亡くなりになっているが、立派な門構えと表札だけは残っている。

そのご隠居だが、児島襄の「東京裁判」を読んでいたらY大佐として登場していた。裁判も佳境に入った頃、反証の証人として海軍を代表する一人として出廷した。戦後は海上自衛隊で中将まで上り詰めたので、偉い軍人だった事も分かった。 

その東京裁判だが、改めてこうして読み直してみても、裁判とは名ばかりの制裁にしか思えない。明治から正当な過程を経て得た満洲から撤退しろというのは、やはり理不尽な要求であった。あの時開戦以外に選択肢はあったのだろうか?今でもその疑問は解けない。つくづく江戸末期の開国から始まり、欧米諸国に翻弄された日本の運命を痛々しく思えてくる。その裁判では「忌避の申し立て」という件があった。あまり聞き慣れない言葉だったが、中立性を欠く場合に使われるようだ。清瀬という日本の弁護人が「裁判長のウエッブ卿がニューギニアの日本軍不法行為を調査した」事を理由にそれを申し立てた。当時の置かれた状況の中で、中々気骨のある人がいたと感動した。

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