先日、とある居酒屋に行った。クジラやマグロなどの鮮魚が売りで、日本酒も辛口中心に置いてあった。見ると、吉田類の「酒場放浪記」の取材が来た時の写真が飾ってあった。主人にその事を聞くと、随分に前に放映された時のものだという。その時の様子を教えてもらうと番組の裏が見えてきた。
まずスタッフはカメラ、メークなど5~6人でやって来る。店側は事前に店の馴染みの客に頼んで座ってもらい、場が温まった頃を見計らって吉田さんが入店する。いい店の雰囲気もサクラが作っていた訳だ。お酒もカウンターに並んでいた瓶は奥に隠し、スタッフが事前に指示したものが出てくる。美味そうに飲んでいた酒も、実はスタッフが合図した時に一口口にするだけで全部は飲まない。酒の肴も同じで、箸を付けた後はスタッフが平らげるようだ。確かに毎週4軒も放映するから仕方ないのかも知れないが、聞いていて何か吉田さんが可哀そうになってきた。彼は好きな酒を味わっていたのではなく、酒好きの役者を演じていたのである。
それでも主人は、撮影が終わると客一人一人に丁寧に挨拶して帰る彼の姿に、「気遣いが凄い人だった!」と感心していた。その店はそれからTVを見て多くの客が全国から来るようになった。遠くは韓国や沖縄で、その中には番組の追っかけも多かった。吉田さんと同じ黒づくめのいで立ちというから笑ってしまったが、正に酒を求めて全国を彷徨う酒場詩人の予備軍である。「放浪マップ」には東京都だけでも600軒以上の店が載っている。多いのは台東区や墨田区などの下町が多い。「ミシュランの星潰し」という道楽があったが、「俺も来年は追っかけをやってみようかな!」、そんな気持ちになってきた。
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