Tuesday, 29 September 2020

ハルビンのアルバム

昔、大阪に出張した時だった。梅田駅の近くに宿を取り、夕方になると北新地に飲みに行った。歩いていると、昭和初期を感じさせるレトロな居酒屋があったので入った。それはカウンターに地元の人が集まる地味な店だった。老夫婦二人で切り盛りしていた。何回か行くうちに、カウンターの片隅にアルバムが置いてある事に気づいた。見せてもらうと、それは夫婦が若い頃過ごしたハルビンの写真集だった。西洋風の建物と行き交う人のモダンな服装が当時を物語っていた。奥さんは、「あの頃が一番幸せだった!」と懐かしそうに語っていたのが印象的だった。

ハルビンは昔の満洲国の町である。今では人口が10百万人というから東京並みである。行ったことは勿論ないが、当時も大都会だったのだろう。夫婦がどういう経緯で住み移ったのか分からないが、満洲開拓団だったのだろうか?満州国が出来た1932年前後から入植が始まり、その数は27万人という。問題は引き揚げだった。敗戦でソ連が南下し置き去りにされた人々が犠牲になった。山崎豊子の「大地の子」で描かれる中国残留孤児の話は中でもとても痛ましい。

宮脇淳子さんの本によると、満洲国は五族協和で平和な時代だったようだ。土地は、第一次大戦のシベリア出兵や、ロシアが仕掛けた日露戦争で得た戦利品である。だからそれを守るために国際連盟を脱退した訳だが、今考えてもあれ以外の選択はなかった気もする。一方日露戦争と日清戦争を契機に大陸に出て行った日本人にとって、初めての外地であった。加えて外交と統治は日本人が苦手とする処だ。仮に太平洋戦争に負けなくても、日本の管理が続いていたかは甚だ疑問だ。まして当時でも日本人の占める割合は2%程度だったから多勢に無勢であった。そんな時代に翻弄された人がまだ生きていた。

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