「明日の記憶」という映画があった。渡辺謙と樋口可南子が演じる夫婦に、認知症がやってくる話である。夫の記憶が怪しくなり、例えば会社の食堂で自分の席が分からなったり、取引先のアポを忘れたり、最後は妻も誰だか分からなくなってしまう。若い時に観たので、年を取るという事は恐ろしいと思った。
暫く前に出た文芸春秋にも認知症の特集があった。面白かったのは阿川佐和子さんの看病記だった。ボケと物忘れが出てきたお母さんを、お父さんの阿川弘之さんがよく叱咤したという。ただ弘之さんが亡くなると、お母さんの表情は穏やかになったという。ガミガミ言われている内に傷付いてしまったようだ。頭はおかしいが感情は残っているので、気を付けなくてはいけない。先日も久しぶりに旧友のT君に会った時、90歳を超えた母親の介護を嘆いていた。物忘れが激しく、財布や保険証を探すのが日常化していたり、出掛ける靴が左右違う靴だったり、賞味期限切れの食材を食べたり・・・。ある時ガスの火を消し忘れ、空焚きがあったのを見てゾッとしたという。流石に以来火を使うことは禁止したようだが、徘徊や詐欺など心配は尽きない。周りにも変だと思われる人が多い。まだ70歳のKさんは会う度に同じ話を繰り返す。「元気?この前山に行ってきました」と、それってこの前話したじゃない!と聞き流しているが、まるで壊れたレコードである。
そんなボケ人にイライラする対処法は、自分が最初にボケる事だと綾小路きみまろが言っていたが一理ある。ボケるのは必ずしも悲しい事ではない。記憶には楽しかった思い出もあるが、辛く痛ましい断片もあるからだ。そんな罪意識から解放されれば、誰でも気が楽になるというものだ。最近はそう思って、老いを受け入れてもいいかなと思うようになってきた。
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