Sunday, 26 July 2020

ラ・マルセイエーズの歌

堀辰雄記念館を出た処に小さな古本屋があった。入るとバッハの音楽が流れる静かな店内だった。そこで買った中公新書の「ラ・マルセイエーズ物語」を読んでみた。著者は慶応の経済を出てパリのコンセルバトワールに留学した、変わった経歴の持ち主だった。そのバランス感覚がいいのか、学者に有り勝ちな年表の羅列でなく、作曲家のルジェ・ド・リールの一生に焦点を充てながら、フランス革命をお浚いする流れが快かった。著者がフランス語に相当長けている事も伺えたり、頭のいい人だと思った。

ラ・マルセイエーズは迫りくるプロイセン軍を前に、ストラスブルグに駐留の大尉が一晩で作ったというから驚きだ。血なまぐさい歌詞も、軍歌と思えば理解出来る。この曲を聴くと誰しも拳に力が入るのはその為だ。タイトルの語源は、マルセイユからパリを目指した義勇兵が口ずさんで拡がったのに由来していた。つくづく国歌は高揚感が大事だと思った。君が代では力が湧いてこない。どうして第二の国歌と言われる「海ゆかば」にしないのか?未だに不思議である。

パリに駐在していた頃、昼休みに出るとオペラ通り近くで国民戦線(FN)の集会に出くわした。党首のル・ペンが来て演説をして散会する最後に、集まった支持者達がラ・マルセイエーズを合唱し始めた。見ていた通行人までが合唱に加わり、これから革命でも始まるのではないかという雰囲気になった。フランス人は元来話し好きで情熱的ある。この曲が入るとその情熱に火が付くのである。映画カサブランカでも、リックの店でドイツ兵が歌う「ラインの守り」に対抗して歌われる。思わず目頭が熱くなるシーンを思い出した。

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