Friday, 17 July 2020

堀辰雄の世界

学生時代に薦められ、堀辰雄の「風立ちぬ」や「菜穂子」など読んだ事がある。女性的な文体であまり面白くなかった記憶がある。そもそも結核病院で療養する女の話や、夫を避け避暑地で過ごす妻の話など、正直はどうでも良かった。それより落合信彦とかソルジェニーツィンの方がスリルと迫力があって好んだ。

その堀辰雄だが、最近信濃追分の記念館を訪れた縁で、改めて小説を読み返してみたがやはり詰まらなかった。どちらもストーリーの展開がなく感情の起伏を描いている。そこがいいと言う人もいるが、この手の女性の心理を追うのは苦手で微睡しい。身近な人を題材にしている点にも違和感がある。例えば「風立ちぬ」は堀の婚約者が他界してしまう伏線と重なる。「菜穂子」のモデルも、友人で自害した芥川龍之介の恋人が母だという。自身のプライベートな世界を公に出来たのは、やはり小説家の成せる技だったのだろうか?小説は軽井沢という一見華やかな舞台に、ポール・ヴァレリーの詩やバッハのフーガで彩られているから綺麗だ。果ては堀が帝大出という学歴も、読者の想像力を引き出している。だから調和が取れてそんな穿った見方をする読者は稀だろうが、それでも気になった。

信濃追分宿は中山道の宿場である。駅から歩けば山道を歩く事30分程掛かる。今でも何もない一帯で駅前も郵便局しかない。当時避暑地として利用する人も少なかっただろうし、夏なら兎も角、冬になれば氷点下になるので厳しい気候である。そんな処で居を構えたので生活はさぞかし厳しかったと想像する。記念館を出ると近くに古本屋があったので入ってみた。やはり小説を意識したのか、店内にはバッハが流れていた。今ではこの一帯は掘の遺産で成り立っている。故人は生きていたらどう思うのだろう?

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