Thursday, 21 May 2020

黒木亮の本

ブックオフに寄ると、黒木亮の「排出権商人」が目に留まった。懐かしい表題に、そんな言葉があったのかと早速買って読んでみた。未だあれから10年しか経っていない。それなのに本はセピア色して遠い昔の事に思える。当時あれ程騒いだ京都議定書も、結局期限の2018年が来ても何も起きなかった。その後の叱責も皆無だった。正に大山鳴動して鼠一匹、一体国連って何なんだろう?と思ってしまう。そんな中、中島みゆきの「時代」のメロディーが脳裏を掠めた。”そんな時代もあったねと・・・”、そういえば、バブルの時も同じ替え歌が流行った。サラリーマンは何度も肩透かしを食う度に、このメロディーが聞こえてくる。

本ではエンジニアリング会社の若手が、CO2削減プロジェクトを求めて世界を駆けまわる。中国、マレーシア、ウクライナ・・・と、炭坑や養豚場など、普通の人が行くの憚る場所だ。一見華々しいが、冷静に考えればとても儲かる事業ではない。本では利益が出ないので、最後は連結から外して凌ぐことになる。粉飾である。今から思えば、削減したクレジットは政府が買い上げるから体のいいODAであった。儲からないのは当たり前、当時はそれが分からない時代だった。

黒木さんは元銀行員で、沢山のビジネス小説を出している。早稲田大で瀬古選手と一緒に箱根駅伝も走ったと言うから、文武に秀でた人のようだ。授かった知識を基に、こんな人生を歩めるのは実力があったのだろう。正直羨ましい。ただ本を読む限り、やたらに固有名詞が多く、まるで調査報告書を読んでいるような感じがした。門外漢の人が読むなら未だしも、実際はそんな格好いい世界ではなから違和感もある。華々しかった世界からサラリーマンが落ちていく、そんな悲哀を描ければもっと深みが出た気がする。今や温暖化の世界は、国連主導の時代から小学生でも知っている地球に優しい時代に代わった。京都議定書も無駄ではなかった・・・そう思いたい

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