旅のもう一つの楽しみはビールである。ケアンズの町にはいいアイリッシュパブがあって連日通い詰めた。カウンターで「今日はどの銘柄にしようか?」とタップを見渡し、グラスに注がれるビールを眺める。頼むのは決まって1パイントである。量は結構あるが、時間を掛けると温くなってしまうので、さっと飲み切るのがコツである。特に冷えた最初の一口は堪らないものがある。ここまで来てよかった!と感動する瞬間である。
銘柄は何でも左程変わらない。何処にもあるのがVictoria Bitter(VB)とGreat Northern、さっぱりした口当たりで喉が渇いている時に飲むのにいい。じっくり味わいたい時は、瓶のSteamrailやCoopersのPale Aleが良かった。ただFurphyは味が薄いし、Pure Blondは瓶は綺麗だがアルコール度が3%とノンアルコールみたいで不味かった。オーストラリア産ではないが、やはりパブで頼むのはKilkennyになってしまう。あの繊細な泡が透明に変って行くのを待つ時間が、何とも幸せな気分にしてくれる。アイルランドのKilkennyの町には2度も足を運んだ親近感も大きい。その度に聞かされるアイルランドの悲劇と重ね合わせると、味わいも一層深くなる。
たまたま今回も現地で、1800年半ばのアイルランド飢饉を描いた「Black 47」という映画を見た。改めて酷い時代だったと思ったが、オーストラリアにもアイルランド南部の港から船に乗り移住して来た。ここのパブでは、日曜日の4時になると地元のアイリッシュ音楽家がやってきて演奏していた。一見して素人集団だが、皆いい笑顔で楽しんでいた。遥か地球の裏側まで移住した子孫が、こうして伝統を受け継いで生きている姿を見ながら、オーストラリアという国の形を感じたのである。
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