記憶はモノにリンクすると言っても、その人が死んでしまうとゴミにもなり兼ねない。先日も、亡くなった親の遺品を処分しようと、忙しそうにしていた人がいた。大事に取って置いても、行く行くは捨てられてしまうかと思うと、所詮は記憶もその人と一緒に無くなるのかも知れない。
火事に遭って、消失した中に沢山のオベリスクがあった。オベリスクは古代エジプトの記念碑である。有名なのは、ナポレオンがエジプト遠征で持ち帰り、パリのコンコルド広場に建っている碑である。空に向かて聳える石柱は、神秘的なバランスが何とも美しい。そのオベリスクのミニチュア版は20~30cmの高さで、暖炉の上などに飾ると部屋が引き立つ。多くはイタリア産の大理石で出来ていて、骨董品屋を探すと時々見つける事が出来る。対になっている価格は、昔なら2~4万円ぐらいだっただろうか?ある時、Les Echosにフランス人のコレクターの話が出ていたのを見て、自分も収集してみる気になった。あちこちの骨董品屋を廻り、20本近く集めたか?中にはギリシャ文字が刻まれた高価な物もあった。それらも全部焼失してしまったが、その後も懲りずに蚤の市を訪れては収集を続けた。火事が無ければ、有数のコレクターになっていたかも知れない。
それから絵画もあった。好きだったのはフラン・バロ(Fran BARO)だった。巨匠ではないが、パリの風景を写実的に描く画家で好きだった。それも全部焼けてしまった。ただ唯一残った絵があった。フェルナンド・ピナール(Fernand PINAL)の風景画であった。手荷物で持ち帰った事が幸いした。100年ほど前の油絵で、シャンパーニュ地方だろうか?白く咲き誇る花が春の訪れを感じさせている。あれから30年近い月日が流れた。書斎の壁に掛かっている絵を見ると、お互いに生き延びた実感が沸いてくる。
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