Saturday, 29 June 2019

バルザックの墓参り

日本のお墓は少し物騒な感じがするが、海外のお墓巡りは好奇心が先に立つせいか、不思議と怖さがない。今までのお墓参りで一番感動したのは、フランスの作家バルザック(Balzac)である。パリのペール・ラシェーズ(Père-Lachaise)の墓地を訪れた時は、彼の生涯を思い返して身近な人になった。

著名な作家だったバルザックは、ある時ウクライナに住む夫人から読書感想の手紙を貰い、文通を続ける内に何と2000Km離れた地まで馬車で会い行くことにした。その旅で身体を壊し最後は死に至るのだが、その後2人の交際は深まり、夫人はパリにやって来て結婚した。ただ彼が死の床に就く頃には夫人に別の男が現れ、バルザックはそれを知らないまま息を引き取る。その喜劇的な生涯は正に彼の作品そのもので、人間味を感じたのであった。

その話を最初に知ったのが、中央新書の「物語ウクライナの歴史」だった。著者の黒川祐次氏は元大使で、学者にはないユニークな視点は、数ある「・・・の歴史」シリーズの中でも実に面白い本である。またその墓参りが切っ掛けで、バルザックの本を読むようになった。有名な「谷間のゆり」は濃厚過ぎるセンチメントが苦手だったが、「ゴリオ爺さん(原題:Le Père Goriot )」はいい作品だった。娘たちを上流社会に送りながら、自身は慎ましい生活を強いられる父親を描いている。カネをせびりに来る娘たちに、自身を犠牲にして惜しみない愛を注ぐ姿は、正に神父(Père)そのものであった。

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