Saturday, 15 December 2018

ホテルリッツの物語

パリの最高級ホテル、リッツ(Ritz)の宿泊者を綴ったティラー・マッツェオ著「歴史の証人ホテル・リッツ(原題:The Hotel on Place Vendôme)」は、とても興味深い本だった。今だったら、一泊最低10万円はするだろうか?、そんな処に自宅代わりに滞在した人達の実話である。登場人物はサルトル、ボーヴォワール、コクトー、ゲーリング、シャネル、ウィンザー公、ドゴール、デートリッヒ、バーグマン等々、キラ星のような人々で、その素顔に触れられる処がいい。

リッツと言えば、何と言ってもヘミングウェーである。彼の名前は今でもバーの名前にもなっているが、第二次大戦でノルマンジーに上陸して以来、アメリカ人としてパリ一番乗りを目指した。そこまでは知っていたが、その到達の経路が詳しく書かれていた。まだドイツの守備隊と銃撃戦が行われていた最中、チュエルリー公園側を避けて、比較的静かなオペラ座側から入ったようだ。ただ、3番目の奥さんと4番目の奥さんになる女性がホテルで交錯したり、それに長期に滞在していたM・デートリッヒの情が絡む辺りは、ちょっと分からない世界だった。

その他、「王冠を賭けた恋」として有名なウィンザー公と結婚したシンプソン夫人が、滞在中に浮気をする話も初耳だった。一時は英国への帰国話もあった公爵だが、それが切っ掛けでパリ郊外で生涯を閉じたようだ。また戦時中ホテルが存続出来たのは、経営がスイス人だった事、ココ・シャネルの愛人はドイツ人だったので、彼女にスパイ嫌疑が掛かったこと、ドイツの原子爆弾の技術者を拘束するアルソス作戦の舞台になった事など、良く調べていた。今と違ってホテルの数も限られていた時代だったから、世のVIPがパリに来ると決まってリッツに泊まったからこそ生まれた逸話だった。読んでいて、例えば帝国ホテルに泊まったVIPを綴ると面白い本が書ける、なんて思った。

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