ドイツのデザートに、カイザー・シュマーレン(Kaiser Schmarren)がある。卵、牛乳、砂糖などで焼き上げるパンケーキであるが、プリンのように中は柔らかいのが特徴だ。上にはシュークリームが乗っていて、出て来る時は温かく、結構量も多いので食べ応えがある。名前のカイザー(皇帝)は、最後のハプスブルグ皇帝のフランツ・ジョセフから来ているらしい。
そのカイザー・シュマーレンを初めて食べたのが、ミュンヘンの郊外の小さなレストランだった。冬のある日、外は雪が積もる寒い日だった。辺りは静かで、教会の鐘の音だけ聞こえて来る田舎である。室内は暖炉で温かく、地元のヴァイツ(白)ビールとモーゼルワインを飲むとすっかりご機嫌になった。何を食べたか今になっては忘れてしまったが、肉料理しかない地域であるから、食べ終わった頃にはお腹が一杯になっていた。それでも最後に出てきたこのデザートを満喫できたのは、とても美味しかったからである。
実はそのレストランに連れて行ってくれたのが、ドイツ人のSさんだった。知的で鋭いビジネスマンだった。男同士の食事のため、普通なら割愛するデザートをその時は無理して頼んでくれた。しかしその後、Sさんとは距離が出来てしまい2度と二人で食事をすることはなかった。カイザー・シュマーレンの甘い味は、苦い思い出と相まって記憶に残るのであった。
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