Tuesday, 5 September 2017

アドリア海の復讐

古本屋で見つけたジュール・ヴェルヌの「アドリア海の復讐(原題Mathias Sandorf)」は久々に面白い小説である。著者は「海底2万哩」や「80日間世界一周」で有名だが、何と今から130年以上前の本と云うから驚きだ。今読んでも、物語の構成やスリル感は全く褪せていない。

物語は1800年代半ばのオーストリア・ハンガリー帝国の時代である。独立を目論むハンガリーの貴族が、今ではイタリアになっているトリエステの港町で捕まる処から物語が始まる。地名が、今のクロアチアの観光地であるドブロヴニクがラグサ、同じクロアチアの海岸線がダルマチア地方だったり、又ハンガリー移民はマジャール人と呼ばれていたり、歴史書の活字に血が通ったような気分になってくる。

復讐劇も沙流事ながら、読んだ人なら誰でもA・デュマの「モンテクリスト伯」とそっくりなのに気が付く。例えば、主人公が九死に一生を得て辿り着いた地で巨額の富を得たり、死んだはずの若者が生き返り悪役の娘に惚れる設定、背景もフランス革命とハンガリー独立がダブっている。勿論、原題のマチアス・サンドロフはエドモン・ダンテスである。ただそれらを差し引いても、行商に来ていたモンテネグロ人は一段低く見られたり、シシリー島出身の悪役の仕事地はリビアのトリポリだったり、当時を知る手がかりが散りばめられていて面白い。単に復讐と言っても、その用意周到な準備に知恵があり、ヨーロッパ人ならではの我慢強さがある。

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