「バルカン半島を旅します」と云うと、必ず「大丈夫なの?危なくないの?」と聞かれる。一般のイメージは、「火薬庫」から来る暴力、残虐性、後進性だろう。ただ普通に廻っていれば、平和で落ち着いた人々で、とてもそんな事が起きたなんて想像出来ない。特にジェノサイトに象徴される民族浄化の凄さなんて、中々旅行者では分からない世界だった。
ただ民族の殺戮は、移住と関係している事が分かって来た。それはイスラエルとパレスチナみたいなもので、本来住んでいた地域に、ある時大挙して人々がやって来ることが発端になっていた。土地を取られた民族と新たにやって来た民族が、山一つ、谷一つ隔てて住んでいれば、いつか紛争が起きるのは自然だった。もう一つは移住した方も被害者ということだ。今の難民問題もそうかも知れないが、バルカン諸国の場合、長年大国の領土拡張に振り回されてきた。ある時はオスマンだったりハプスブルグ、最近ではロシアと主人が代わった。主人が代わると、傀儡を司るその国の支配者も入れ替わる。それが同じ民族の報復を生み、移民を生む事に繋がった。それは自動車の玉突き事故のようなもので、人々の意識は「誰かにぶつけられ誰かにぶつかった」に近い。
最近出た中公新書「バルカン」はこうした理解を深めてくれた。行った事のない人に取ってはつまらない本だと思うが、半島全体の歴史を俯瞰していて良かった。そもそも昔はオスマン帝国の一部だったのに、それを国別に捉える識者がいるから分かり難いのだ。映画「ネルトバの戦い」のDVDも買ってみた。戦争映画に付き物のある華やかさはないが、旅の行間を埋めてくれた。
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