最近でこそ行かなくなったが、銀座はサラリーマンにとって憧れの場所だ。仕事帰りにひょっと馴染みの画廊に寄って主人と他愛もない話をする。そして寿司屋の暖簾を潜り、最後は行き付けのクラブに顔を出して帰る。勿論外には黒塗りの車が待っているので、家までスッと帰れる・・・。そんな晩年を夢見ていた時もあったが、遂にその時も訪れないまま終わってしまった。
その銀座画廊だが、今週吉井長三さんが亡くなった。吉井さんは日本にいち早くルオーやカトランを紹介し、中川一政や梅原龍三郎、実篤などの作品を手掛けていた。吉井さんは単なる画商でなく、山梨の清春白樺美術館やパリにも店を出すなど精力的な人だった。何度かお目に掛かったが、人間味溢れる印象がある。画廊は絵描きと収集家を繋ぐサロンである。一度売った絵画は展覧会があると借用する。そんな人との関係を大事にしていたのだろう。
思えば戦後の高度成長期に、誰もが文化の息吹に飢えていた。働けドンドンでも、どこかに心のバランスを取りたかった。その世界、取り分け優れた美を提供したのが銀座の画廊だった気がする。何か一時代が終わったような気がした。
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