Friday, 18 March 2016

裏銀座のサル

若い頃は良く山に登った。普段の憂さを晴らすように歩き回った。結局、冬山こそやらなかったが、アルプスの主要ルートは殆ど制覇した気がする。

ある時、北の裏銀座を縦走した。大町から登り、野口五郎岳に出て、水晶、三俣蓮華を通り槍ヶ岳山荘に出るコースである。ところが金曜の夜行で行く予定が、急用が入り東京を発ったのが土曜になってしまった。その半日の遅れを取り戻そうと必死に歩いたが、遂に双六小屋を過ぎた辺りで足が動かなくなってしまった。辺りは次第に暗くなり、夏とはいえ気温も下がってきた。勿論行きかう人もいない。そして千丈に差し掛かった頃だったか、登山道に猿が出てきた。

猿は群れを成していた。まるで置物のようにジッとこちらを見ている。段々足が重くなり、3回呼吸してやっと一歩が出る・・・ひょっとして襲われるのか?と恐怖が募った。目指す山荘には明かりが灯り、近くに見えても一向に距離が縮まらない。それは今思い返しても怖い経験だった。

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