先日、神楽坂のとある小料理屋に行った。若い頃、お金もないのに随分と通い詰めた店だ。お目当ては秋田の新政だ。今では考えられないが、当時は新政の樽酒を年中置いていた。小ぢんまりしたカウンターで飲む内に、いつの間にか虜になってしまった。
最初に連れて行ってもらったのが結婚前のSさんだった。例によってSさんは飲み過ぎてゲーゲーやっていると、婚約者が迎えに来た。そのSさんも10年ほど前に亡くなった。亡くなる直前、久々に飲みに行こうというのでご一緒した。抗ガン剤で毛髪がないがカツラをしていた。女将は歳を取っていたのでそれに気が付かない。2人の思い出話を横で聞いていて、涙が止まらくなかった。Sさんも女将もそれが最後になった。
その店も板前のSさんが養子になって継いだが、暫く前にSさんも亡くなった。女将は自身の祖母に良く似ていた人だった。祖母は三味線と小唄を晩年まで稽古していた人だったので、神楽坂の雰囲気と重なったのかも知れない。今回一緒した仲間は、「文化を語る会」と称して他愛もない話をした人達だ。気が付くとおそらく我々が一番古い客になったらしい、という話になった。店主も交代し全てが変わってしまった。明治は遠くなりにけり!そろそろここともお別れか?・・・誰もがそう思った日だった。
No comments:
Post a Comment