若い頃お金が無くなると、ホテルで夜勤バイトした。展示会の設定だが、結構の実入りになった。華やかな表の世界とは違い、暗く過酷な裏世界に驚いたものだ。ロビーを歩く人が突然眩しく見えたりした。バイトが終わり、稼いだお金で真っ先に行ったのは、そのホテルのレストランだった。暫し不思議な感覚に浸ったのを覚えている。
ジョージ・オーウェルの「パリ・ロンドン放浪記(原題:Down and out)」を読んでいたら、彼も全く同じことをしていた。彼はパリの貧民街で暮らし、食べるカネも尽きた頃、ホテルの皿洗いの仕事を見つけた。毎日17時間の過酷労働だったが、それで食い繋いだ。そして辞めた翌日に、貯めたカネでそのホテルのバーに出向き、ビールを飲んで憂さを晴らしたという。
本には多くの浮浪者が出てくる。どん底の中で餓死寸前にも拘わらず夢を見るのがパリだ。貧しいが、無けなしのカネで同居人にパンを買ってくるのもパリだ。何も食べないで4日経つと安堵感が出るとか、同居のロシア人はウェイターを夢見るとか、興味深いシーンが多い。例えば、パリのウェイターは殆どがドイツ人、ロシア人などの外人だったとは知らなかったし、格は皿洗いより高いという。浮浪者は殆ど男で毎日退屈なこと、服は売ってもシャツのカラーは最後まで取っておく・・・、またユダヤ人は信用されていないが、更に下にアルメリア人がいたようだ。レ・ミゼラブルではないが、どん底には人の妬み、嫉みが詰まっているが、一寸の希望もあった。
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