Wednesday, 7 August 2013

神楽坂の女将を偲んで

暫く前に、友人のMさんから神楽坂の女将が亡くなったと連絡があった。享年94才、神楽坂の小料理屋の女将である。店は、神楽坂の坂を登り切った毘沙門天の近くにある。昔ながらの石畳は、泉鏡花や永井荷風の世界を今に伝えている。そして何と言っても、高台なので都心とは思えない静けさが心いい。


思えば20代から良く足を運んだ。決して安い店ではなかったが、年中置いてあった新政の樽酒がお目当てであった。小作りで適度の空間は快く、芸者上がりの女将さんはきりっとしていて、背筋を伸ばして飲む雰囲気があった。何故か自分の祖母に似ていたので、特別親しみがあった。

そんな女将も80歳を超えた頃から、老いが出てきた。ある時、癌で余命幾ばくもない先輩と飲みに行った。「お互い若い頃は良かったね」と交わす言葉を横で聞きながら、涙が止まらなかった。店内に若い頃お客さんと撮った写真が飾ってある。その時はそれをまじまじ眺めては、昔は綺麗な人だったんだ、と改めて思ったものだった。帰る時にカエルの土産をくれる。それを見ながら・・・ご冥福をお祈りします。

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