アパートのバルコニーから隣の家が見える。大きなマロニエの下、昔ながらの木造の家である。朝晩カモメがやって来るし、剥げたペンキが年輪を感じさせる。200坪はあるかと思う広い庭は、冬は一面銀世界、雪が解ける頃にはタンポポが咲き乱れ、今はご主人が夕方芝刈りをしている。毎朝スカーフ姿のお婆さんが家の前を掃除し、洗濯は昔ながらに庭で干し・・・といった、まさに絵本の世界である。
昭和の30年代に「ちいさいおうち」という絵本があった。Richard Lee Burton著の翻訳で、物語はアメリカの田舎にあった小さな家が、都会の波に飲み込まれていくというストーリーだ。子供心に憧れたのは、丘の上に立つ家とその周りで遊ぶ子供たち、豊かな四季の移り変わりの中に生活する人々であった。今から思えば、戦後の高度成長期に憧れた古き良きアメリカそのもので、”ちいさいおうち”がそのままアメリカに見えたのかも知れない。
「ちいさいおうち」は都会の波に押し潰されそうになったが、幸い郊外に引っ越して生き延びることが出来た。変わって欲しいところと、変わって欲しくないところ、素朴さを保つのは難しい。
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