パリのオペラ座近くに、Harry's Barという老舗のバーがある。映画に出てくるような大きなベレー帽を被った靴磨きの少女や、各国の大学ペナント、シックな客層などが雰囲気を作っている。
随分前になるが、ここに通っていた時、隣り合わせた初老の男がいた。肩を落として元気がない。例によって他愛もない話をしていると、「もうこの国は駄目だ」と嘆くので、「そんなことないよ、パリって凄いじゃん!」と肩と叩いて励ましたりした。何度か会っているうちに、家に友人が集まるので来ないかという。気軽に返事をすると、近くになって自宅に立派な招待状が送られて来た。そして当日、行って見ると何と7区の高級住宅街、通された部屋にはグランドピアノ2台が小さく見える大豪邸、夫人も雑誌に出て来るような人だった。4匹の室内犬と共に現れた彼氏は、Barとは別人で驚いたことがあった。
時々この話を思い出すのは、今の日本もこれに結構似ているからだ。世界から見れば大変高い所得を享受し、治安の心配もなく、文化も成熟している。何より経済はプラス成長している。確かに元気のない国になってはいるが、駄目だと思っているのは意外と本人だけかも知れない。
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